バカ、意識しすぎ

翌日。
毎日朝一番に来ることはわかっていたから、それより早く会社に到着しようと思っていたのに、既にかすがは出社していた。
オフィスの扉から背を向けて黙々とパソコンに向かっている。
その背中を見つつ声をかけた。
「おはよ。」

声に反応するように肩がびくりと震える。
彼女は充分な余裕を持って振り返ると、おはようございますなんて他人行儀な挨拶が帰ってきた。
眠れなかったのか泣き腫らしたのか、目は充血していた。

「昨日眠れなかったの?」

「…誰のせいだと思っている」

「そんなに動揺することかねぇ?」

「………」

 

ぷいと俺様に背を向けると、何事もなかったようにパソコンへむかう。

カチャカチャとキーボードの音だけが辺りに響く。

 

「あのさー、返事は?」

「必要なのか?」

「そりゃあ、ねぇ。」

「聞かない方がいいんじゃないか」

「はっきり言われるまでは割とポジティブなのよ」

「はっきり言ったってポジティブだろ、お前は。」

振り向きもせずぴしゃりとはねのけた言葉に少し落ち込みそうになる。

かすがは気にせず続けた。

 

「…職場で告白するなど不謹慎だぞ」

「そう?」

「仕事に支障が出るだろ」

 

「…出たんだ?」

「ち、違う!一般論だ!私がお前を振ったら仕事がやりにくくなるだろ」

「付き合えばいいじゃん」

「それも仕事がやりにくい」

「どうすりゃいいのさ」

「ええい、私には謙信様という方がいるんだ、お前だってわかっていただろう!」

「別に付き合ってるわけでもないじゃん」

「……」

 

今度はかすがが落ち込む番だった。

 

 

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