バカ、意識しすぎ

午後一。
はたから見てもぼーっとしているのが目につく今日のかすがは、愛しの謙信様が真後ろに来るまで気がつかなかった。
仕事の話をしようと、側まで来た折にそんな光景に出くわした。

「かすが」

愛しい人が呼びかけているっていうのに、かすがは呼びかけに応えない。

「かすが」

先ほどよりやや強めの語気にかすがの肩がびくりと震える。

「はっ、はいっ!!」

「いまよろしいでしょうか?」

「け、謙信様!!失礼しました、はい、もちろん!」

「なにをしているのですか?」

「す、すみません、ちょっと集中していまして…。」

嘘をつけ、嘘を。

 

「さきほど、たけだのと なかよくはなしをしていたようですが…」
俺様の事である。かすがは明らかに狼狽えている。

「ち、ち、、ち、違います! すごく仲が悪いんです!こう見えても!」

「そうなのですか?」

「本当に!お互い嫌いあってるんです!」

「それは、しりませんでした」

「もう憎しみに近いくらいで…お互いに殺しあいかねない、そんな仲なんです!」

「あちらはそうはおもってないようですよ」

 

「は…?」

謙信様は面白くて仕方がないという表情でこちらを見ている。

唐突に話題を振られて苦笑した。
さすがに近くにいたのはもろバレだったか。

 

「すみません謙信様、いいんですこんなヤツ…お先にご用件を…」

「ええ、ではこことここにアポをとっていただけますか」

「はいっ!」

謙信様はかすがににこやかに微笑むと颯爽と踵を返す。

後に残った俺様には冷ややかな視線が注がれる。 と思えばすぐにパソコンの方へ向き直ってしまった。

 

「なぁ、かすが」
「……」

「あのさぁ、」

「……」

 

かすがは無視を決め込んでいる。

 

「仕事の話なんだけどさ」

「……」

「明日の会議でさ」

「……」

 

全く子供じみた女だとつくづく呆れて見せようかと思ったが

これでは話が進まないので、手にしていたプリントを丸め頭を軽くはたいた。

かすがは勢いよく振り向く。

 

「何をッ…!」

「今度は本気で仕事の話。俺様が言うのもなんだけど、プロらしく私情と仕事はわけよーね。」

「……!」

 

お前にだけは言われたくないと、

顔を真っ赤にして悔しそうな、泣きそうな顔をするのでつい吹き出して、やっぱり返事はいらないよって伝えた。

 

余計怒らせたことは言うまでもない。

 

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