ラブレターと思い込み

~第四章「期待の手紙」~
こしょう入りの手紙を送りつけられた俺たちはくしゃみをしながら お館様の部屋まで行くと、一応ことの経緯を説明した。 予想外なことに、お館様はかすがからの手紙を見ると大笑いして、 さすが上杉の忍びだなと感心していた。 そしてなぜか俺様に酒やぶどうやら土産品を持たせると、さあ行けと促した。
「さあ行けって…ど、どこへ?」
嫌な予感がふつふつと湧き上がってくる。
「決まっておろう、上杉へお礼をして来い」
「…もう夕刻なんですけど…」
「お前の足ならば今日中には帰ってこれるじゃろ、のう?」
「はい!左様にござります!佐助の足なら大丈夫でしょう!」
「旦那…」
「しっかりお礼を言ってくるのだぞ、佐助!!」
旦那がそれはそれは嬉しそうに手を振るので、俺様はしぶしぶ武田を後にした。
(はぁ、また時間外労働かよ…。)
思いは小さな溜息に混じって空に溶けた。 すっかり日が沈み、辺りが闇に包まれ始めた頃、 俺様はようやく越後へ到着した。 よく考えたら全然寝てない。 疲労もピークだがあと少しだ。 今日は忍び込まずに、堂々と門から入れる。 立派な外門の両脇には、煌々と炎が燃えていた。 こんな夜分に何ものぞ、と訝しげな門番に 武田から手土産を持って来た事を告げると、門番は門の中へ引っ込んだ。
「待たせたな」
しばらくして、次に門から出てきたのはかすがだった。
「かすが!」
予期せぬかすがの登場に、思わず頬が緩む。
「わざわざ門から来るとはご苦労なことだな」
「誰のせいだと思ってんの誰の」
「あの手紙、あの男が開いたのか?」
「んーにゃ。俺様と旦那が開いて二人でこしょうまみれになったよ」
まだくしゃみでそうだし、と肩をすくめると、かすがは穏やかな表情を浮かべる。
「何か言っていたか?」
「さすが上杉の忍びだってさ」
「フン、そうだろう」
かすがは満足そうに鼻で笑うと、手をこちらへ差し出した。 見れば手には白い紙。 心の中で胸がざわざわと波打つ。
「なにそれ」
冷静を保って口にした。
「手紙だ」
「…誰宛て?」
「お前にだ」
「俺様に?」
「ああ」
かすがから恐る恐る手紙を受け取ると、ごくりと唾を飲み込んだ。慶次の言ったセリフがありありと思い起こされる。
「まさか…恋文ってやつ?」
「違う」
かすがは眉間に皺を寄せると、絶対に武田に帰ってから見ろと言った。
「なんで?」
「折角手紙を書いたのに今見たら意味がないだろ」
「ここで読まれるのが恥ずかしいんじゃないの?」
「うるさい、さっさと土産を置いて失せろ!」
含み笑いで土産をかすがに渡すと、絶対だからな!と念を押された。 門に掲げられた赤い炎が、ゆらゆらと揺れかすがの横顔を照らす。 怒っているのか、照れているのかよくわからないまま、はいはいと苦笑して踵を返した。 これは期待しても良いんじゃないの? 俺様の足取りは軽かった。

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