仁義なきBASARA~相棒~ ※戦国BASARA893パロディ。捏造設定が苦手な方はブラウザバック推奨

約束の時間に、男はだいぶ遅れてきた。
オレンジがかった褐色で、やや長めの髪とスーツ。
チンピラというよりはホストのような胡散臭い雰囲気があった。
「ごめんね~、ちょっとばたついててさぁ」
閉口一番軽い口調でそう言うと、“佐助”と名乗って握手を求める。
「…かすがだ」
ひらひらと泳ぐ男の手を一瞥すると、口数少なく前へ歩み出した。
「おっとご挨拶だね」
「今はそんな和やかに話をしている場合ではない」
「まーね、じゃあとりあえず車2台は目立つから、同じ車で行こうか」
まるでドライブにでも誘うように言って、親指で背後の車を指差した。
黒塗りのベンツである。
キーを指にくるくると回すと、私の返答も聞かずに車に乗り込んでしまう。
仕方なく、ベンツの助手席へ乗り込んで、手際よくシートベルトを装着した。
「それにしても――」
言いかけて男は、ミラー越しにこちらを見やる。
「噂どおりのべっぴんだねぇ」
皮肉を込めた言葉を投げつけると、顔を歪めた。
「…どうやって上杉に取り入ったわけ?」
「お前には関係ない」
男の方を見ないようにきっぱりと言い切れば、ふーんと興味のなさそうな声が聞こえてくる。
確かに関係ないか、と続けて苦笑すると、車をゆっくりと発進させた。
「そういえばさ、名前」
「名前?」
「その名前、偽名でしょ?」
「…それがどうした」
一体どんな事を聞かれるかと思えば、名前とは拍子抜けだった。
この世界で名前などはただの記号、文字の羅列に過ぎない。
様々な事情でこの道に入ったのだ。今まで使っていた名前など捨ててしまっても何も感じない。
「貴様も偽名だろ」
「まぁね」
目線を前に、男は笑う。
ハンドルを切る動作は手馴れていた。
「…私の名前に何か問題でも?」
「いや、別に。偽名にしちゃ凝った名前だな、と」
「謙信様がつけて下さった名だ。良い名前に決まっている」
「へー……」
その言葉に何を感じたのか、男は目を丸くしてこちらを一瞥した。
そして前へ向き直ると、なるほどねと苦笑する。
にわかに馬鹿にされたような気がして、私は苛立った。
「…そんなことより、今日のやまをお前はどう見ている」
「“お前”じゃなくて“佐助”。俺様は上から多額の金が動くと聞いてる」
「私もだ。もしその金が不正なものだったら――」
「不正も何も、ヤクザなんだからそんな事どうだって良いでしょ」
「どうでも良くなんかない。不正は不正だ。必ず止めて見せる」
声に熱を込めてそう言えば、男はいきなり吹き出した。
「ちょっ、マジで言ってんの?」
「大真面目だ」
「…う、上はなんて?」
「…私はただ、見張れと言われただけだ」
男はそれを聞くなり、目を見張ってこれ見よがしに溜息をつく。
「ちょっとちょっと、勘弁してよね、いくら上に気に入られてたって、やっていい事と悪い事があるでしょ」
「…何が言いたい」
「だからあの金は、俺達にとっちゃ知らない方が良い金なんだって!それにわざわざ首突っ込もうなんて――」
「だが…!」
反論しかけた矢先、男が私の口を手で覆った。

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