夢の話(微グロ)
そいつは、うざいくらいに私に付きまとってくる男だった。
      「なー、かすが。いい加減に俺様と付き合ってよ」
      「断る」
      佐助は常に私にまとわりついた。親友の慶次も佐助にはうんざりしていた様子で、しばしば、口論になったこともあった。
      そしてそんな折、慶次が死んだ。
      殺された。
      
      首筋を鋭利な刃物で切られていた。私はそれを見たときに直感した。
      犯人は恐らく佐助だろう。私との中を邪魔する慶次は佐助にとって邪魔な存在でしかない。
      私は憂鬱な気分で電車に乗り込むと、扉から一番近い席に腰を落とした。
      
      なぜあいつを止められなかったのだろう。ズキリと心の奥が痛む。
      電車が停車駅に着くと、急に悪寒が走った。
      「またお前か」
      「来ると思ったでしょ」
      「………」
      佐助は平気な顔をして私の隣に座る。あんな事をしたのに呑気なものだ。私は、もう何もかも諦めていた。私のせいで慶次は死んだ。それでもこいつは、私に付きまとうのをやめない。もう良いんじゃないか。思考が停止し始めた脳にぼんやりと浮かぶ。これ以上犠牲が出る前にいっそこいつと付き合うか。まるでそれを見透かしたように、佐助が言った。
      「もう良いんじゃない?俺様と付き合う?」
      驚いて佐助に目をやると、今まで見たこともないような優しい微笑を浮かべていた。
      「―――――ッ」
      思わず頷いてしまいそうだった。
      私は何とかそれを堪えて、うつむいた。
      佐助はそれすらもお見通しといった様子で、私の手を優しく引き寄せると力強く握った。
      「付き合う?」
      「…別に」
      肯定にも否定にもとれる言い回し。佐助は肯定と解釈したのだろう。良いんだね、と呟くと顔を歪ませた。
      
    *
      
      本当に突然だった。
      一瞬の出来事で、気が付いたら切られていた。
      痛みなどない。
      
      首からは勢いよく血飛沫があがり、車内を濡らした。生暖かい鮮血を自身に感じながら、驚愕の表情で佐助を見た。
      「やっと俺様のものになったよ」
      佐助は歪んだ笑みを作ったまま返り血を浴びるように体に受ける。
      「アンタは今までの最長記録だよ、かすが」
      嬉しそうに舌なめずりをすると、もう一度体を切りつけられた。
      やはりこいつに気を許すのは間違いだったか。
      妙に冷静に状況を分析すると、私の意識はフェードアウトしていった。
Since 20080422 koibiyori