夢の話(微グロ)

そいつは、うざいくらいに私に付きまとってくる男だった。
「なー、かすが。いい加減に俺様と付き合ってよ」
「断る」
佐助は常に私にまとわりついた。親友の慶次も佐助にはうんざりしていた様子で、しばしば、口論になったこともあった。
そしてそんな折、慶次が死んだ。
殺された。

首筋を鋭利な刃物で切られていた。私はそれを見たときに直感した。
犯人は恐らく佐助だろう。私との中を邪魔する慶次は佐助にとって邪魔な存在でしかない。
私は憂鬱な気分で電車に乗り込むと、扉から一番近い席に腰を落とした。

なぜあいつを止められなかったのだろう。ズキリと心の奥が痛む。
電車が停車駅に着くと、急に悪寒が走った。
「またお前か」
「来ると思ったでしょ」
「………」
佐助は平気な顔をして私の隣に座る。あんな事をしたのに呑気なものだ。私は、もう何もかも諦めていた。私のせいで慶次は死んだ。それでもこいつは、私に付きまとうのをやめない。もう良いんじゃないか。思考が停止し始めた脳にぼんやりと浮かぶ。これ以上犠牲が出る前にいっそこいつと付き合うか。まるでそれを見透かしたように、佐助が言った。
「もう良いんじゃない?俺様と付き合う?」
驚いて佐助に目をやると、今まで見たこともないような優しい微笑を浮かべていた。
「―――――ッ」
思わず頷いてしまいそうだった。
私は何とかそれを堪えて、うつむいた。
佐助はそれすらもお見通しといった様子で、私の手を優しく引き寄せると力強く握った。
「付き合う?」
「…別に」
肯定にも否定にもとれる言い回し。佐助は肯定と解釈したのだろう。良いんだね、と呟くと顔を歪ませた。



本当に突然だった。
一瞬の出来事で、気が付いたら切られていた。
痛みなどない。

首からは勢いよく血飛沫があがり、車内を濡らした。生暖かい鮮血を自身に感じながら、驚愕の表情で佐助を見た。
「やっと俺様のものになったよ」
佐助は歪んだ笑みを作ったまま返り血を浴びるように体に受ける。
「アンタは今までの最長記録だよ、かすが」
嬉しそうに舌なめずりをすると、もう一度体を切りつけられた。
やはりこいつに気を許すのは間違いだったか。
妙に冷静に状況を分析すると、私の意識はフェードアウトしていった。

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