よくある話

「生理が…、来ないんだ」
絞り出すようにこぼされた言葉に、鈍器で思いきり殴られたような衝撃を受けた。
え?生理が来ない?整理出来ない、じゃなくて?
ってか避妊はバッチリしてたはずだよね、そもそも生理来なくなる程やらせてもらってないんだけど、いや良いんだけどさ、せめて一週間に1回はお願いします
ってかそれってただのストレスとか生理不順なんじゃないの?

あらゆる思いが走馬灯のように駆け巡ったが、言葉にならない。
口を開いたまま、かすがを見つめていると追い打ちをかけるように言葉が降って来た。
「私は周期、安定している方なんだ」
一瞬、白いかっぽう着で赤子を抱く自分が脳裏をよぎったがすぐに慌てて追い払った。
「に、妊娠検査薬は?」
「…そんなもの、私に買える度胸があると思うか?」
そんなこと、威張られても困るわけだけど、かすがは片方の眉を器用に持ち上げると俺様より困ったような表情をつくる。
「なぁ、どうしたらいいと思う?もし――、その、」
かすがはためらいがちに言葉を切った。
よほど不安なのだろう。顔色が冴えない。
「子供が出来たら?」
ストレートにそう言えば、“子供”という単語に彼女がはっと息をのむ。俺様は構わず続けた。
「良いじゃん、出来たって。俺様とかすがの子だし」
「だが、」
「…あんまり裕福な暮らしは出来ないかもしんないけど、俺、かすがのためなら一生懸命働くよ」
「だから、さ、心配しないで…とりあえず明日一緒に病院行ってみよっか」
「佐助…」
我ながらくさかったかな、へへへと笑顔を作ればかすがの瞳がわずかに潤む。
そんなに感激したんだろうか。なんだか照れくさくてさりげなくお茶にしようかと促すと、湯のみに茶を注いだ。
熱々のお茶を口に含めば、身にしみるように体の芯が暖まる。
「…お前の子供かわからんぞ」
かすがが突然そんなことを言い出すから、思わずお茶を吹き出した。
「ちょ、ちょっと、なんてこと言うの!?」
「…そう、聞かないのか?」
「へ?」
「普通だったらそう聞くだろ?お前とは、その、あまりやってないし」
「…かすがはそんな奴じゃないし、もしそうならもう少し上手くなってもいいは「お前に聞いた私が馬鹿だった!」
ぱしんと頭をはたかれると、かすがはいつもみたいに笑う。
じゃあ明日は休日だな、なんて冗談を言って会社に電話をする。
俺様もそれにならって会社に休みをもらった。(さんざん旦那に怒鳴られたけど)
それからいつも通りに夕飯を食べて、風呂に入って、床について。
なんだか眠れないようなふわふわした気持ちで目をつぶると、あっという間に朝になってた。
朝の光が煌煌と差し込むリビングに寝間着のまま出て行くと、
同じく寝間着のままトイレから出て来るかすがと目が合った。
…何か言いたげな視線に嫌な予感がする。
「おはよ。どしたの?」
「………すまん、生理が来た」

足の力が同時に抜けた気がした。

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