私は、独りが怖かった。
独りを恐れていたのです。
独りは淋しい。独りは怖い。

誰からも求められず、誰からも必要とされない
悲しくて、淋しくて、恐ろしい。
そんなものは生きていると言えない。 生きる意味を見いだせない。
だから、 たくさん人を殺しました。 それが私の唯一の出来ることですから。 戦で人を殺せば、それは英雄です。 信長公にも必要とされるかもしれないし、 なにより自分が生きている、と実感出来る。 そんなふうにささやかですが可愛い希望を持って生きていたのです。 ですが… あなたは初めからそれを知っていましたね? 私や、信長公の妹君は、「それ」から逃れたくて必死だというのに。 あなたは、最初から、人は独りだと知っていた。 そして、「それ」から逃れる術などない、ということも。
あなたは、それを根底において生きていますが、 決して見つめようとはしませんね? 知らないフリをして、見ないようにしている。 違いますか?
おやおや、そんな顔をしないで下さいよ。
始めに抉るようなことを言ったのはそちらなんですから。
いいですか? あなたはそうやって冗談めいたことを言って、本心を隠すのがお上手なようですが、はっきり言って私には通用しませんよ。
なぜならあなたと私は同じ種類の人間だからです。 汚くて、どす黒い、真っ黒なものが心をおおっている。そうでしょう? そうそう。 あなたの想い人でしたっけ?上杉の忍び。 あなたはあの女に惚れているようですが、 そんなものは恋愛ごっこに過ぎない。 わかっているでしょう? あなたにとって彼女は、ただの都合の良い女。
子供が玩具を求めるように、あなたも光を求めているだけです。
私が信長公に惹かれるようにね。 え?違う?
その証拠に、 あなたは自分の主に彼女を殺せと言われたら断らないでしょう?
仕事と割り切って彼女を殺すでしょう?
その程度の愛なのですよ。所詮。 あなたは人と深く関わることを恐れていますね。 裏切られた時つらいから。 結局人間なんて、みんな自分が可愛い。 だから人と一線をおいている。 それはあなたの想い人にも、主にもいえることです。
え?私がですか? 私は狂ってなどいませんよ。 むしろ―――、 あなたのほうでしょう? 狂っているのは。
あなたは自分でわかっているはずですよ。 私など、及びつかない死臭。 常識ぶっていられるのは、信玄公や真田幸村のおかげでしょう?
本当はあの中の誰よりもあなたが狂っているのでしょう? あなたは闇です。私と同じね。何も変わりませんよ。
そんな顔をしないで下さい。 私はあなたが好きですよ?愛しています。
そして、死ぬほど憎んでいる。 嗚呼、そうです。 私はあなたが憎いですよ、猿飛佐助。 あなたに会わなければこんなこと、知ることもなかった。
人は独りだと。生まれるときも死ぬときも。
私は知ってしまいました。 もう前の私には戻ることは出来ません。 生きる意味を失ってしまいました。 だから、あなたは私に償いをしなければなりません。 わかりますよね?
さぁ、 私のために死んで下さい。

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