ホワイトデーの受難
『ああ、まぁ実際は役立たずなんだが。海老で鯛を釣るとはこのことだな』
      
      かすががらメールが来た。
      3月14日のホワイトデー。
      かすがはこの日、用事があるとかで出かけていない。
      朝にバレンタインのお返しをしてから現在時刻、16時23分40秒。
      どうやら送る相手を間違えているようだが、これってまさか俺様のこと?
      確かに流し込まれただけの義理チョコにかすがの欲しがっていたアクセサリーをあげた訳だけど。
      
      だからってこの仕打ちはないんじゃないの?
      携帯の画面と睨み合って結局かすがにメールを送ることにした。
      『役立たずって言うのは俺様のこと?』
      ってね。
      送信してから10秒も経たないうちに、かすががらメールが帰って来る。まるでエラーメール並の早さだ。
      メールを開くと真っ白な画面にぽつんと並んだ文字3つ。
      『すまん』
      「これだけ…!?」
      余りのそっけなさに思わず声が出た。
      ちょっとそりゃないんじゃないの。
      せめて弁解するとかさぁ、あるじゃん、そう言うの。
      俺様はすっかりご機嫌斜めで、ソファに飛び込む。
      ふて寝をしていたら、ついうとうと眠り込んでしまった。
      
      *
      
      「佐助!佐助!」
      ゆさゆさと体を揺さぶられて目が覚めた。
      すっかり夕寝をしてしまったらしい。
      部屋の中は真っ暗だった。
      寝ぼけ眼で俺様を揺さぶっている人物に目をやれば、彼女は呆れた顔でこちらを覗き込む。
      「全く、夕飯も作らずに寝ているなんて――」
      あまりにその言い草に腹が立って、かすがの手首を強く掴むと、ソファに引き込んだ。
      「な、何をする!」
      俺様の上に倒れ込むように重なるかすが。
      細くて長い金色の髪が、俺様の体に柔らかな曲線を描く。
      耳元に唇を寄せると嫌味っぽく彼女に向かって囁いた。
      「どーせ俺様は役立たずですよ」
      「あれは間違えてお前に送っただけで――」
      「でも俺様のことなんでしょ」
      「だから謝っただろ」
      「海老で鯛を釣ったんだもんね、よく言うや」
      「佐助!」
      寝転んだ俺様の胸をかすががとんと叩く。
      「何さ」
      「あれは、市に送ろうとして、間違えて、だな」
      「ホワイトデーのお返し、何もらったのとでも来たわけ?」
      それとも、都合のいい使える男はどう、とかね
      そう続けて失笑すると、かすがが俺様をきつく睨む。
      「違う!“良い彼氏を持って幸せね”と来ているのに、
      “私の彼氏は最高だ”なんて送ったらただの馬鹿だろ!」
      吐き捨てるようにそう叫ぶと、俺様からそっと離れる。
      「え、マジで?」
      「…お前は本当に役立たずだ」
      
      なんだか急に恥ずかしくなって、俺様は素直にかすがに謝った。(結局土下座した)
      かすがの胸にさりげなく付けられたネックレスがきらりと光った。
    
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