笑うな

「で?どーなんだよ」
さっきまでサッカー中継に夢中だったくせに、伊達政宗はくるりとこちらに向き直った。
近くまで来たからと理由をつけて上がり込んで私が3時のおやつにしようと思っていたシュークリームを頬張る。
「…どうとは何がだ」
私は苛つきながらもシュークリームを取られまいと躍進した。
口の中に甘い濃厚なクリームの味わいが広がるものの、2つ3つ頬張ったせいでどこか損をした気分だ。
伊達はもう一つシュークリームに手をかけると猿飛だよ、さ・る・と・び!とニヤつきながら言う。
「佐助がどうした」
「Hey!頼むぜ、同棲してんだろ?」
「同棲ではない!ルームシェアだ」
「Shit!どっちだって良いじゃねーかそんなの、どこまでいってんだ、Ah?」
佐助の話題が出ただけでも憂鬱だというのに、この男は…。
私は心の中で小さく舌打ちをした。佐助が出かけていたのがせめてもの救いか。
「…どこまでも何も私達はそういう関係ではない」
「Oh、悪い悪いそこまではまだか。でもkissくらいはしたろ?」
「…その質問に答える義務はない」
「それはしたと捉えてOKだよな?」
伊達は不適に笑うと、あいつもやることやってんなと一人ごちる。
否定しても駄目、黙れば肯定に捉えられる。呆れて言葉も出なかった。一体どうしたいんだ。
「だから私と佐助はそういうんじゃ――」
そう言いかけた途端、伊達が堪えきれずに吹き出した。
クックク、とまるで何かの悪役のように笑う。
「わ、笑うな!」
「jokeだってjoke!マジにとんな、分かってるって」
「佐助はただの幼なじみだ」
「Ha!猿飛が聞いたら泣いちゃうんじゃねーか」
「別にあいつが泣こうが喚こうが知ったことか」
「素直じゃねーな、そこまで言うならroomshare解消したらどうだ?」
「そ、それはっ…」
そこまで言われて口ごもった。
伊達の言う通り好きでもないやつと暮らす必要はない。
だが佐助と住むのは楽だし色々と都合がいい。しかしそれでは身もふたもない。
しばらく言葉を探して黙っていると、伊達は呆れた様子で肩をすくめた。
「OーK。色々と都合がいいからそれはしたくないんだろ?女ってやつはホント、crazyだぜ」
「う、うるさいっ!お互いの利が一致しているんだ。文句はあるまい」
「お互いの“利”ねぇ…、にしたって猿の生殺したぁこの事だな」
伊達は目を細めると、最後の一つシュークリームを一口かじる。と同時に玄関から声がした。
「ただいまー」
「おっと、旦那のお帰りだぜ」
「旦那じゃない!」
「ゲッ、何してんの」
「よぉ、しけたツラしてんな」
佐助は怪訝そうな表情で辺りを見回すとシュークリームが入っていた空の容器を指差す。
「…俺様のシュークリームは?」
「…たった今、なくなった所だ」
伊達の楽しそうな笑い声が部屋に響いた。

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