もしも佐助が宅配便のにーちゃんだったら

今日で最後のお仕事は、化粧品のお荷物だった。
大きめの弁当箱を3段くらい重ねたダンボールの箱を助手席に置くと、指定されたここからそう遠くないマンションへ車を走らせる。
しばらくして、それらしいマンションが見えて来たので
道路の脇に車を止めて伝票に目をやった。
お届け先は203号室。いたって普通の3階建てマンション。
よし、と小声で気合いを入れると、普段と変わらない動作で荷物を抱え、車を降りる。
階段を一段飛ばしで203号室へ向かうと、静かに呼び鈴を鳴らした。
ピンポーンというごく普通のチャイムが鳴って、インターホンから女の声が聞こえる。
「はい」
「すみませーん、宅急便です」
事務的に答えれば、相手はどうもと言ってインターホンを切った。
パタパタとこちらに近付く足音が聞こえ、止まる。
恐らく覗き穴からこちらを見ているのだろう。
出来るだけさりげなく、帽子をかぶりなおした。
ガチャリと音を立て扉が開く気配がしたので、頭を軽く下げ、お届けものですと笑顔をつくった。
顔を上げ、彼女の顔を見た瞬間。俺は言葉を失った。
金髪がよく似合う端正な顔立ち。
きりりと上がった眉に大きな目。
つんととがった高い鼻、きゅっと閉じられた唇。
恐らく家着だと思われる、Tシャツと短パン。
大きな胸が、これみよがしに揺れた。
ど真ん中だ。
正直、どれをとってもどストライクだった。
ごくりと唾を飲み込んで、手の汗をズボンでぬぐう。
職務も忘れ呆然としていると、彼女は訝しげに眉をひそめる。
「あの、」
控えめにそう言われ、我に返った。
「あ、すいません、代引きで1万1059円です」
彼女は脇に抱えていた財布を取り出すと、1万と1100円を俺様に渡す。
手が触れただけで電気が流れたみたいだった。
「41円のお返しです。お確かめください」
内心ドキドキしながらそう言うと、彼女は長いまつげを伏せて小銭に目をやる。
確かにと一言もらすと小銭を財布の中へしまった。
「良い…」
「え?」
「いや、良いマンションですね」
「ああ、そうですか?」
「今ちょっと引っ越しを考えてて、つい見ちゃうんですよね」
苦笑しながらそう言って、こんなところに住めたら良いだろうなぁと続けた。出来ればあなたの部屋の隣に住みたいんですけど。というのは飲み込んで。
彼女は不思議そうにこちらを見ている。
「すみません、余計なこと言っちゃいましたね、こちらに印鑑お願いします」
「…サインでも?」
「あ、大丈夫です」
伝票にサインしてもらうと、彼女に荷物を渡しありがとうございましたと言って頭を下げた。
扉は無機質に閉められたが、俺はしばらくその場を動けないでいた。
足下を見つめながら呼吸を整える。
彼女がサインした伝票に目をやって、おもむろに名前を確認した。
彼女の下の名前は“かすが”というらしい。名前を口にするだけで胸の奥が痛い。
大きく深呼吸をすると、ガチャリと扉が開いた。
「あ」
「…これ」
そう言って彼女は俺のボールペンを差し出す。
さっき返し忘れていたようだ。
ボールペンを受け取って、“あの”と切り出した。
「はい?」
「今度はいつ頃頼みます?化粧品」
彼女は面食らった顔のまま、たぶん1ヵ月後と答えると今度こそ玄関の扉を閉めた。
1ヵ月後の宅配も絶対に俺がやろうと心に決めた。

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