舌打ち

山盛りの缶ビールの空き缶を尻眼に、佐助は大きくため息をついた。
「俺様ってさぁ?すんげー純情なわけじゃん?」
かすがはチラリと佐助を見、大きな瞳を潤ませると熱っぽく――――酒臭いため息をはく。
「謙信様こそこの世の美の象徴といっても過言ではない」
お互い顔を真っ赤にして、右手の缶ビールを同時に飲んだ。
さっきから会話のキャッチボールは全くと言って良いほどできていなかったが、そんなことは全然気にならないように互いに会話を続けた。
「だからさぁ、色々奥手なわけよ、わかるっしょ?」
「謙信さまの銅像があったら私は間違いなく買う」
「今は草食男子ってやつがはやってるじゃん?俺様まさしくあれだと思うんだよね」
「出来れば等身大がふさわしいと思うぞ」
どちらが先に酔いつぶれるかというくだらない賭けから始まったこの“飲み比べ”はすでに開始から3時間近く経過しており、さすがの佐助にも酔いが回ってきていた。しかしかすがの口から『謙信様』という単語が出るたび、否応なく酔いは醒めるのであった。
「…かすがったら聞いてんのぉ?」
「聞いているに決まっているらろう、謙信さまが世界一だ」
こりゃあ聞いてないねと肩をすくめて缶ビールを一気に飲み干した。
もう何本飲んだかすら記憶の定かではない。
かすがはそれを見ると、私も負けないんらと舌っ足らずに言った。
「ね、マジな話」
「…なんだ」
小声で言うようにかすがへ顔を近づけると、彼女は左手で頬杖をついたまま、うさんくさそうな視線を投げかける。
目はとろんと据わっていた。
「わかってると思うけどさ、」
「何を」
「俺様のことどう思ってんの?」
「……」
かすがは長いまつげを伏せて、考え込むように押し黙った。
沈黙が二人の間に横たわり、気まずい空気が流れる。
佐助は酔った勢いで口にした言葉に、さらに酔いがさめるのをひしひしと感じていた。
「出来れば好きか嫌いかで教えて欲しいなぁ~なんてさ」
冗談めいた口調で突っ込み待ちな雰囲気を作るが、彼女は乗ってこない。
「…冗談だって」
「……」
「おーい…かすがー?」
覗き込むようにかすがを見やれば、彼女の寝息が聞こえてきた。
「…寝てるし」
これで意識があったら、ずるい女である。
小さく舌打ちをして、俺様の勝ちね、とひとりごちた。

Since 20080422 koibiyori