触るな

「触るな!触るんじゃないっ!」
顔を真っ赤に火照らせて、じっとりと汗ばむ体。
内心そうとう焦っているくせに、かすがは鬼のような形相で声を荒げた。
にじりよる俺様の魔の手から逃れようと懸命にこたつから這い出て、尻餅をついたような格好で後ずさる。
「そう言われるとさぁ、余計に触りたくなるんだよね」
にやにやと手を卑猥に動かしながらかすがに手を伸ばした。
「やめろっ!頼むから、こっちへ寄るなッ!」
そう喚きちらしてぱちんと俺様の手を払いのける。
それがなんとも弱々しくて、余計追いつめたくなるんだけど。
「良いじゃない、減るもんじゃないし」
「うるさいっ!お前だって触られるのは嫌だろう!」
「俺様はかすがに触られるんならいくらでも触って欲しい」
「気色の悪い事を言うんじゃないッ!」
仕方なくちぇっと悪態をついて諦めた素振りをした。
隙あらば遠慮なく襲撃するつもりでかすがの様子を伺う。かすがはそんな俺様を一瞥し、訝しげな視線を送ってくるがすぐに諦めたと悟り、肩を落とし気を緩めた。
「隙あり!」
まってましたと言わんばかりに俺様速攻でかすがに飛びついてしっかりと脚を握る。
うわっ、貴様!なんてかすがが声を上げるけどもう遅い。かすがの体が大きくはねる。
「……あれ?」
しかし反応したのはその一度きりで、それからは触っても叩いても無反応だった。
「かすが、もしかして――――」
「ああ、どうやら―――」
俺様が冷や汗をかきながら苦笑するとかすがはそこで言葉を切って、軽やかに立ち上がると今度こそ鬼の形相でこちらを睨みつけた。
「人が脚が痺れて動けないというのに、お前というやつは…!」
「いたっ、痛い!かすが!蹴らないで!」
「うるさいっ!私の痛みを思い知れ!」
「痛いってば!やめ、悪かったって!」
「うるさいっ!!」
そのまましばらく蹴られ続けた俺様は、危ない扉を危うく開きそうになりながらなんとか事なきを得ましたとさ。

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