好敵手

「かすがさんのどこが好きなんですか?」

ドストレートにそう聞かれて、思わず顔をしかめた。

「いや、べ、別にそーいうんじゃないし…」

言葉を濁すと、少年は顔を膨らませる。

「許婚なんでしょう!?」

 

全く面倒なこの坊やは、何故だかしらないが朝っぱらから武田にやってきた。

開口一番、かすがさんの許婚の猿飛さんを呼んでくださいと門番に言ったらしく、

朝からライバルが来たと俺様は嘲笑の的である。

出来れば誰もいないとこでお話ししたいと宣うので

鹿さんは旦那と散歩にいっちゃって、俺様はこの鹿くんと二人きり。

 

「それでさぁ、何の用なわけ?」

一体何しに来たのか目的を訪ねる。

少年はハッとした表情を浮かべると、すぐに真っ赤になった。

大方、かすがの相談とかそんなとこだろう。実にわかりやすい。

「じ、実は…猿飛さんが、か、かすがさんのこと、どんな風に思っているのか確認しに来たっす」

「はぁ?俺が?」

「長いんですよね?」

「何が?」

「片思い歴」

「………」

全く余計なお世話とはこの事である。

「なんで俺様がそんな胸のうちを吐露しなきゃなんないわけ?」

「えっと、ほら、お互い想いびとが同じなわけで、僕達はいわば戦友のようなアレっす」

いつからこんな坊やと戦友になったのだろうか。

思いの丈を発散する場が欲しいのか?

俺様の場合、思いの丈は本人に発散してるわけだが。

それをこいつにやられては少々困る。

分散する思考をまとめ、やれやれと肩をすくめた。

「それで?かすがの何について話すわけ?」

この台詞がまずかった。 そして冒頭の言葉に顔をしかめた、というわけだ。

だが機転のきく俺様はこいつに大人の対応を見せようと決めた。

 

「かすがさんのどこが好きなんですか?」

「そりゃー決まってるっしょ。顔と体だよ」 「なっ!!」

思った通り童貞丸出しの少年はたじろいだ。

「そ、そんな不純な目でかすがさんを見ているんですか!?」

「アンタだって一目惚れなんだろ?どこが違うわけ?」

「ぼ、僕はあれっす、あ、あの大きくて豊満な、か、体なんて見てないし、ぼ、僕の推理によると顔は人の心を映し出す鏡なんっす!!」

「じゃー俺様もそれよ。かすがの人となりが顔に出ているから顔が好きなんだな」

「…………」

絶句する少年を尻目に、さらに追い立てる。

「若いやつは乳ばかりみてるかもしれないけど、あいつの良いところはやっぱりあの尻だね。」

「…………」

「千人に一人の逸材だと思うわけよ」

適当に言葉を並べたてれば、少年は終いには俯いてしまった。

かすかに肩が震えている。

「あ、ごめん子供にはちょっと刺激が強かったかな?」

泣いて逃げ出すか―――。

そう思った矢先。

とんでもない言葉が返って来た。

 

「そんなんだからずっと片思いなんっすよ…」

 

「え?」

 

「本当にかすがさんの事を想っているんすか!?」

「あの」

「そんなんでかすがさんの事を幸せにできるんすか!?」

「ちょ」

「かすがさんを愛しているから結婚を誓ったんじゃなかったんすか?!」

暴走する少年をよそに俺様の心はいたく冷静だった。

というかひたすらこの面倒なやりとりを続けていくのが苦痛だった。

 

「真田十勇士の隊長であるあなただから、僕は身をひこうと思っていたっす。だけど、こんな状態なら、僕もでるとこ出るっす」

「出るとこ…?」

「ええ。僕がかすがさんを、いえ…かすがを幸せにするっす!」

「………!」

唐突な宣戦布告である。

少年は息を巻いて目を輝かせている。

「こんな形になってしまいましたが、これは勝負っす。僕はあなたには負けません。必ず彼女を射止めてみせるっす」

お邪魔しました、といって少年は踵を返そうとする。

「ちょ、ちょっと待った!」

思わず引き止めた。

「何か?もう前言撤回はできないっすよ!」

「…俺様がかすがと結婚する!」

「僕が結婚するっす!」

「俺様だって!」

「僕っす!」

「俺様!」

「僕!」

「俺様!」

「今度、かすがさんにどっちが好きか判定してもらうっす!」

「………」

 

 

今度が来ないことを強く願った。

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