お前に伝えたい

「なぁ、かすが。ちょっとは俺様のこと好きになった?」
一緒に暮らし始めて、はや1年。佐助はソファで新聞なんか読みながら、ふざけた声で聞く。
私はリビングにある椅子に体育座りで腰掛けて、ぼんやりしていた。
声に気が付いて焦点の定まらない目をなんとか佐助に向ける。
「嫌いだ」
何も考えずに即答した。
「ん?何?好きだって?」
1年一緒にいてわかったことだが、佐助は自分に都合の悪いことは聞こえない性質(たち)らしい。
こちらを見もしないで言った。
私は少し苛立たしげに、今度はゆっくり、はっきりと発音した。
「き ら い だ」
「愛してるって?」
「死ね!」
もうこいつには、何を言っても無駄だ。
「もー、結婚したいって?」
「……」
私が諦めてそっぽを向くとすぐにそれに気付いて佐助は言うんだ。
「ごめんって。かーすが。嘘だよ。冗談!知ってるよ、許してって!」
何が知ってる、だ。そんな気なんかさらさらないくせに。
佐助はソファにくつろいだまま、首だけこちらに向ける。新聞紙越しに見えるのは瞳だけ。
その瞳が真っすぐに私を捉える。
私は視線を落としてため息をつく。

お前は、私が好きだろうが、嫌いだろうが関係ないんだろ?自分が好きならそれでよくて、私の気持ちなんか問題じゃない。嫌いだって言われるのを前提にそういう風に言うんだ。
お前の目がそう言ってる。
何を言おうがお前には、『お前の本心』には、届かない。
だから、
「佐助」
「なーに?」
「…だ」
「へ?」
「…きだ」
「え?なに?」

「好きだ」

少しでもお前のそのポーカーフェイスを崩したくて、そう言った。
ただ単に、私が楽になりたかっただけかもしれないが。
それにしても、その時のお前の顔。

かなり笑えた。

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