脳内メルヘン

「おーい。こんなところで寝てると風邪ひくよー」
濡れた髪をタオルで拭きながら脱衣所から出てくると、彼女は床に転がっていた。
長いまつげに縁取られた瞼を固く閉じて、お姫様は死んだように眠っている。
テーブルの上には既に食べ終わった夕飯が出したままになっていて、料理はすっかりと冷めてしまっていた。
「食べてすぐ寝ると、豚になるよー…」
かなり深く眠っているようだ。
嫌味を言っても応答はない。(普段なら殺されてるところだ)
「かすがぁー」
仰向けに寝転がる彼女の顔を覗き込む。
安らかに眠る姫君はひときわ美しい(何言っちゃてんの俺様)
人差し指で頬を突付けば、指が弾力で押し戻される。
ふいに感情が高まって、理性が揺らいだ。
(ヤバ…)
「狼さんになっちゃうぞー…」
小声でそっと呟くが、かすがは応えない。
「お姫様は王子様のキッスで目覚める――……なんてね」
肩をすくめ、何とか理性で欲望を押さえ込むと計ったようにかすがが自分の名前を呼ぶ。
「さすけ」
「えっ あっ はい!」
驚いてかすがに目をやるが、彼女の瞼は閉じたままだ。
(脅かさないでくれ…!)
後ろめたさも手伝って、心臓が激しく脈打つ。
どうやら寝言のようだ。
夢にまで自分が出演しているかと思うと嬉しいようなくすぐったいような、妙な気分に顔が綻ぶ。
「まったく、何考えてんのかねぇ」
かすがの隣に同じように寝転がった。
居心地が良いのは彼女も同じなのかもしれない。
心の中でクスリと笑うと、静かに目を閉じた。




「地獄へ落ちろ」
「え、ちょっと!どんな夢見てんの?!」

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