夏の終わり

赤やオレンジ、色とりどりの鮮やかな色彩が次々に目に飛び込んでくる。
子供用の花火だって、充分楽しめるな。
妙に納得したようなかすがの声は、心なしか弾んでいた。
「あのさ-、一応ここベランダだから気をつけてよね」
ベランダの引き戸に寄りかかって、注意を促す。
後片付けをすることになるのはたぶん俺様だろう。
水がたっぷりと入ったバケツをかすがの傍に置いた。
「わかっている」
しゃがみこんで背中をこちらに向けたまま答える。
会社の人に貰ったとかいう花火は、本当に子供用でわずかな量と種類しかない。
パチパチと音を立て、手持ち花火は次々とバケツの中へ投げ入れられていく。
とうとう残りは線香花火だけになってかすがは束ねられたそれを器用にほどいていく。
「お、線香花火。俺様もやっていい?」
そう言って束ねられた線香花火をくじびきのようにひいた。
ちゃっかりとかすがの隣を陣取ると、ロウソクに近づける。
先端が勢い良く燃え、灰が少し落ちる。
すぐに火の玉が大きくなり、パチパチと独特の音が聞こえた。
それを見ていたかすがも同じように線香花火に火をつける。
「夏ももう終わりだな」
「綺麗だねぇ」
お互いぼんやりと独り言のように呟いて
時間がとてつもなくゆっくりと流れるのを感じていた。
「俺たちさ」
「なんだ」
「ここに来てもう結構経つよね」
「…あぁ」
「時間が経つのってホント早いよね」
「………」
かすがは静かに頷いて、そのままうつむいた。
かすがと一緒に過ごす夏は、3回目を迎えようとしていた。
本当にあっという間で、めまぐるしく季節が変わって。

でも俺様とかすがの関係が変わったかと言われれば、変わったような気もするし、全然変わらない気もする。
結局腐れ縁、だなんて言ってしまえばそれまでだけど。

線香花火が湿っぽい空気を掻き乱すように大きく膨れ上がって一際激しく光を放つ。
「見て見てー!でかいだろ?」
「そんなものはすぐに落ちるぞ」
かすががそう言った瞬間、火の玉はぽとりと地面に落ちる。
「あちゃー、ホントだ。かすがは中々うまいじゃん」
「小さい頃によくやったんだ」
「へー」
かすがの線香花火は、パチパチと音を立てて、ひっきりなしに瞬いている。
大きく赤い線香花火。
出来るだけ長く見ていたいと思った。
花火も。かすがも。
「俺たちさ」
火の玉が大きく震える。
かすががわずかに顔を上げた。
「いつまでこのままなの?」

言い終えると同時に線香花火は雫のように手元から離れると、静かに地面を焦がした。

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