夏のお楽しみ

太陽の日差しがジリジリとアスファルトを焦がす。
外のビル街は蜃気楼で霞んでいた。
とにかく暑くて、折角の夏休みだというのに私は扇風機の前で伸びていた。
「ちょっとー、かすが!そんな所に寝転んでたらそうじが出来ないでしょーが!」
果てしなく鬱陶しい男が掃除機を前後に動かしながら、声を張り上げて私の脇を通る。
「………」
うつぶせに寝転んだまま無視を決め込んだ。
佐助はやれやれと言って私を避けながら器用に掃除機をかけてゆく。
掃除機特有のやかましい音がより一層暑さを増長させる。
扇風機の意味もなく、掃除機から排出される生暖かい風が私を撫でた。
たまりかねて、体の向きを変え言葉を投げかける。
「暑い!冷房はどうしたんだ…!」
佐助は掃除機の強さを弱に変えると私を一瞥して言う。
「今掃除中だから我慢しろって。とりあえずさぁ、そこをどいてよ、ね?」
私にウインクをするとお願いのポーズをして懇願する。
「いやだ」
私は即答するとすぐに寝返りを打つ。
佐助に背を向けて小さく丸まった。
掃除機の音だけが響く。
「…かすが。そんなこと言ってるとひどい目に遭うよ?」
佐助の声が急に低くなった。
嫌な予感。
慌てて起き上がろうとするが、時既に遅し。
すさまじいバキューム音とともに掃除機が私の体に押し付けられる。
Tシャツの裾を吸い込み、少しづつ上へ。背中、首へ向けて少しづつスライドしていく。
「や、やめろっ!」
私は焦りの声を上げ、ジタバタと体を動かす。
「さぁーて。今日のかすがの下着は何色かなー?」
佐助は私を押さえつけると笑みを浮かべた。
「や、やめろと言っているだろう!!」
足をめちゃくちゃに動かし、
全身全霊を込めて佐助の弁慶の泣き所を蹴りあげた。
「痛ぇ――――――――!!!!」
佐助は悲鳴を上げてその場へ崩れ落ちる。
私は魔の掃除機から無事に解放された。
着衣の乱れを整え、佐助に目をやる。
佐助は向こう脛を抑えてうずくまると、涙声で言った。

「あ、あか――――」

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