夏の怪談

それは、じめじめとした蒸し暑い朝だった。
休日だというのに、佐助は朝から出勤で、ぶつくさと文句を言いながら家を後にした。
私はもちろん休日なので寝巻きのままそれを見送って、朝ご飯も食べ終わって一息ついたところだった。
(特にすることもないので、部屋の掃除でもするか)
掃除はいつも佐助がやっていることなので、たまには私もやるべきだという軽い気持ちで掃除機を手にした。
2LDKの部屋は意外に広く、玄関、ろうか、自室、リビングなど苦戦しながらもなんとか掃除機をかけた。
思ったよりも随分時間が経ってしまい、もう既に昼近い。
(最後はあいつの部屋か)
そう思って佐助の部屋を覗いた。
二人で部屋をシェアしてから結構経つが、今まで佐助の部屋には入ったことがなかった。

部屋の中は、こざっぱりとしていてあまり物がない。
案の定私の部屋より綺麗なのが少し口惜しい。
一番最初に目に入ったのはオーディオコンポと山積みのCD。
前にコンポを自慢したことがあったからお気に入りなのだろう。
中にはどこで手に入れたのか、レコードも混ざっている。

ベットの上には散乱した服、小さなテーブルの上にはノートパソコン、そして迷彩柄の布に覆われたカラーボックス。ボックスの上には服がたたんで置いてある。
まぁなんてことはない。
所謂、男性的な部屋だ。
私は、中に入るともう一度辺りを見回して掃除機を中に入れる。
そして何気なく、迷彩柄の布をひらりとめくりあげた。
(………)
めくりあげて、一秒もたたないうちに私は既に後悔していた。
普段慣れないことなんか、するものじゃない―――――。
布の下には、おびただしいほどの ア、アダルトDVDや本の数々。
男の部屋には必ずあると聞いていたが、これほどまでとは。
(や、やはりあいつは変態だったのか…!)
驚愕の事実に見舞われ思わず後ずさる。
一刻も早くこの部屋を後にして、すべて忘れてしまいたかった。
そのまま後ずさりで部屋を出ようとする。
「ひっ!」
肩にぽん、と手が置かれた。
反射的に声が漏れる。
心臓が悲鳴をあげ、呼吸がしずらい。
恐る恐る静かに後ろを振り返ると、
そこには仕事に行ったはずの佐助がいた。
「さ、さすけ――、」
「…見たね?」
佐助はにこりと微笑むと後ろ手でドアを閉めた。

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