もしも佐助とかすがが刑事だったら

“ドンドンドン”という腹の底に響くような重低音が鳴り止んだときを見計らって、彼女に近づいた。
引き金に手をかける前に、自分の手のひらを差し出す。
「…指が吹っ飛ぶぞ」
「相棒の反射神経を信頼してるからね」
かすがは、嫌そうにこちらを一瞥すると、構えた銃から右手を離し耳をすっぽりと覆うプロテクターを慣れた手つきで外した。
「何か用か」
「いーや、別に」
「………」
やや薄暗い射撃室で、彼女の眼光が鋭く光る。
「早く用件を言え」
だから別に用はないって言ってるじゃん、と心の中で苦笑した。
美人の婦警さんは、こちらを探るように見据えている。
「…まだすねてんの?」
「すねてなどいない」
「お前は落ち込むとすぐここに来るよね」
苦笑してそう言えば、かすがは眉間に皺を寄せたまま的の方へ向き直る。
さっき上司の上杉から注意を受けたのがそんなに応えたのか。
(俺様からしてみれば、あんなもん叱られたのうちにも入らないんだけど)
些細な事でも精神を安定するにはここが丁度いいらしい。
複雑な気分で彼女の横顔から的へと視線を動かした。
5mほど離れた簡易な人型の的には、バラバラに3つ穴が開いてる。
「まさに絶不調ってやつ?」
追い討ちをかけるつもりは毛ほどもなかったが、かすがは煩わしそうにうるさいと呟いた。
「蜂の巣になりたくなかったらさっさと出て行け」
「習っただろ?人に銃口を向けてはいけませんってさぁ」
「うるさい!」
「でも残念だったね」
「…何がだ」
「もう既に俺様のハートは穴だらけなわけよ」
「性格が捻じ曲がっているからか」
顔色一つ変えずにそう言い放つかすがに、思わず吹き出した。
「違うって」
「じゃあなんだ」
「かすがの魅力で、サ」
「…何の話だったか」
「ハートは穴だらけ」
「………」
俺様の声を無視してかすががまた銃を構えたので、慌てて制止する。
「ナイスジョークでしょ」
「…ちょっと的の前に立ってみろ」
「かすがを慰めようとしたんだって」
「だから私は落ち込んでなどいないと言っているだろ!」
そーかもね、と適当に相槌を打ってから、指で銃の形を作る。わざとらしく的に向かい『バーン』と撃つ真似をすると、指の先をふっと吹いた。
「気でも狂ったか」
辛らつなセリフに肩をすくめて見せると、その銃をかすがに向かって突きつけた。
「俺様の愛の銃で撃たれれば、たちどころに元気になるよ」
大まじめな顔でそう言って、バーンと銃を撃つ真似をする。
かすがはそれを見て目を丸くしたが、俺様が銃を撃ってから3秒後に
「ウッ」といううめき声を上げて、片膝をついた。
「ちょ、かすが…!?」
まさかこんな素晴らしいタイミングで発作か何かが起きたのかと、慌てて駆け寄ると彼女の肩に手をかける。
苦しげな表情でこちらを見上げると、自身のたわわな胸を押さえつける。目のやり場に困った瞬間、濡れた唇がこう発音した。
「穴…開いたかもしれん」
「…マジ?」
え、どの辺?と体が熱くなるのと同時に、こめかみに冷たい感触が走る。
見ればかすがが俺様のこめかみに銃を突きつけていた。
「はは、ジョーダン…」
俺様がひきつった顔で笑えば、婦警さんも優しく微笑み返す。
あまりの美しさに、危うく意識を手放しそうになった。

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