もしも佐助とかすががメイドだったら 
※このお話は588さまの第4書架588棚目『da prima~英国風メイドパロディ~』より設定をお借りしたうえねつ造しています

美しい細工が施された、真っ白な両開きの扉を前にして
私はため息をついた。
入口の脇へ立つと、いつものように主人を迎える体制に入る。深く息を吸って、扉が開く気配を感じた。
丁寧に頭を下げれば、頭上からはいつもの麗しい声…ではなく、間の抜けた声が降ってくる。
「ただいま」
執事の燕尾服を几帳面な様子で着こなした男は、ヘラりと笑う。
用意しておいた椅子とテーブルに目をやると、そちらへ歩き出した。
半ば呆れ顔で奴を見つめていると、ほらご挨拶は?等と野次が飛ぶ。
「…お帰りなさいませご主人さま」
ぼそりと早口で呟いて、小さく舌打ちをした。
昨日のチェスの盤面が頭をよぎり、唇をかみしめる。
どうしてあの局面で私はあの駒を進めたのだろうか。
今になっては後の祭りだが、ゲームに負けた私には最悪の罰ゲームが待っていた。
その名も“メイドさんごっこ”である。
ネーミングからして虫唾が走るというのに、奴は巷で噂のメイドカフェに行ってみたいとかいう安易な理由で私にメイドをやれと言った。
どうせ今と変わんないでしょ?と不敵な笑みを浮かべながら。
そんなことを思い出し、今更ながら佐助を睨みつけてやると、椅子にどっしりと座った私のご主人(仮)は笑顔笑顔と促した。
「いや~こういうのやってみたかったんだよね~。ホラ笑って!」
「…ツンデレ喫茶ですから」
「あ、そういう設定?」
無愛想にそう言えば、参ったなぁというように苦笑して見せる。
「何かお飲みになりますか」
「いーね、じゃあコーヒーもらえる?」
「はい」
静かにそこから離れ、傍らに用意してあった動くティーセットテーブルから作りたてのコーヒーをカップに注いだ。
視線を感じながら、トレイに砂糖やらミルクやらを一緒に乗せて佐助の方へ向き直る。
「お待たせいたしました」
そう言ってテーブルにティーカップを置く。
「あ、ねぇ」
「なんだ…ですか」
「ミルク入れてくれる?」
「…かしこまりました」
主人の言いつけ通りミルクを手にすると、奴は続けて言う。
「愛を込めて混ぜてね」
「………」
佐助を一瞥(軽蔑のまなざしで)すればそれはそれは楽しそうな顔をしていた。
仕方なくミルクをコーヒーに注ぐと、スプーンでかき混ぜる。
「………」
「ほらほら、無言じゃなくて!」
「言うことなんかないだろ」
「本場では愛込め入りますって言うらしいよ」
「…愛込め入りまーす」
「ちょっと棒読み!棒読みすぎ!」
「ツンデレ喫茶ですから」
「…そうだったね」
ケッといやな顔をしてみせるが、男はひるまない。
愛をありがとうと歯の浮くようなセリフを吐いてから、
コーヒーカップに口をつけた。
「あちっ」
「出来たてですので」
「わざとでしょ」
「…ツンデレ喫茶ですから」
「…あっそう」
佐助はやれやれと肩をすくめると、コーヒーカップを自分の目の高さまで持ち上げた。
「…何か?」
いぶかしげに奴を見つめれば、にんまりと笑みを浮かべる。
「ふーふーして」
「…なんですって?」
「熱くて飲めないから冷まして」
「………」
にこりと不敵な笑みをこちらに向けると、さぁと言った具合にカップを差し出す。
顔の筋肉が痙攣しそうになるのを必死でこらえながら、私は佐助のコーヒーカップに顔を近づけた。
唇を少し突き出せば、コーヒーのなんとも言えない香りが鼻の奥に広がった。
“ふーふー”と口には出さなかったがコーヒーに向かって息を吹きかける。
佐助はそれを見て、満足そうにうなずくと下がってよろしいと偉そうに言った。
「さようならご主人さま」
「御機嫌よう、だろ」
「……以上で――」
「え?」

「1万2千円でございます」
「か、金とんの―――」
転んでもただでは起きないことの大事さを改めて知った。

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