もしもかすがが婦警だったら

「止まれ!」
ハンドルを握る手に思わず力が入るほど鋭い声色に、心臓を掴まれたような思いがした。
恐る恐るサイドミラーで確認すれば、案の定婦人警官の足が覗いている。
わお綺麗な足、と驚く暇もなくドアミラーを下げれば、そこから婦警さんが覗き込んできた。
「おい、今ここに止めようとしていただろ!」
眉間に皺を寄せながらこちらを睨みつける婦警さん。
水色のシャツの膨らみが目の前に迫る。
おもむろに顔を見れば、すんげー美人だった。
長い指で俺様がたった今車を止めようとしていた場所を指し示す。
都心の交通路はごちゃごちゃしていて非常にやっかいだ。
先方との打ち合わせ場所に駐車スペースがなく仕方なくここに止めようとした事を説明すると、彼女は無表情のまま、ここは駐車禁止だとはっきりとした口調で言った。
「え、でもあっちにも車止めてあるし…」
「あれは完全な駐車禁止だ」
憤慨した様子でそう言って、俺様に免許書を出すように促す。
「あの、でもまだ止めてないし…」
「止める気だったろ、私の目の前で」
「いやだから知らなかったんですって」
「知らなかったですんだら警察はいらん」
「………」
美人だけど可愛くない。
少し腹立たしさを感じながらも、なおも食い下がった。
「これから気をつけるんで、今回は見逃してくんない?」
さわやかな笑顔を浮かべるも、彼女の表情は曇ったままだ。
「………」
「ね、ね、頼むよ!俺様これからお仕事だし」
「本来なら罰金ものだからな」
「そこを何とか…!」
手の皺と皺を合わせて必死にお願いすると、婦警さんは小さく溜息をついた。
「仕方ないな。まぁ初めてのようだし、一応免許書だけ見せてもらう」
しぶしぶ自分の免許書を彼女に渡すと、彼女はそれを読み上げた。
「さるとびさすけ…?」
「そうです」
「珍しい名前だな」
「おねーさん、名前は?」
「何故お前に名を教えなければならない?」
「いや、ほら担当の婦警さんの名前、一応聞いておこうかなって」
「…忍野」
「下の名前は?」
「…かすが」
「どこの警察署に行けば会える?」
「すぐそこの駐屯所に努めている」
「ふーん」
にこやかな笑顔を浮かべると、彼女は訝しげな視線を送ってくる。
「彼氏とかいるの?」
「…その質問に答える義務はない」
「もし何かあったらあれなんで、電話番号とか教えてもらっても良いですか」
「断る」
その後、なんとかごねて(携帯の赤外線機能が壊れたから試させてもらっても良いですかとか何とか言って)彼女の携帯番号をゲットした。
「電話してきたら逮捕するからな」
「…むしろ本望です」

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