密書争奪戦 ※ヒーローズプレイ前妄想

「手を離せ」
「嫌だね」
上杉謙信に もたらされるはずの密書を目の前にして 俺様とかすがは睨み合いを続けていた。 筒状の巻物の両端をお互いつかんだまま かすがは嫌というほど眉間に皺を寄せると、低い声でつぶやいた。
「…お前には関係のない代物だ」
「…俺様には関係ないけど残念ながらお館さまの命令なんだよね」
右手で巻物を掴んだまま肩をすくめてみせる。 かすがは小さく舌打ちをすると、隙を見て勢い良く密書を引っ張った。
「おっとぉ!」
俺様も負けじと巻物を引っ張り返す。 ここでかすがを逃したりなんかしたら減給もあり得るかもしんない。 お館さまのおっかない顔が脳裏をかすめて、体から血の気が引いた。
「頼むよ!かすが!ね!ね!ちょっとで良いから!」
「うるさい!駄目だと言ったら駄目だ!」
「俺様を助けると思ってさ!」
「うるさい!だまれ!いい加減にしろ!!」
「マジで頼むって!一瞬でも良いから一瞬でも!」
「駄目だ!あっ、馬鹿!そんなに強く引っ張るんじゃ――!」
『ビリッ』 とてつもなく嫌な音がして、かすがと俺様は顔を見合わせる。 かすがは青ざめたまま、息を呑む。 二人して恐る恐る手元を見れば、密書は真っ二つに裂けていた。 正確にはかろうじて下の部分はくっついているものの、虫の息とはこのことだろう。
「あっちゃー…」
「…お前のせいだからな」
「こりゃお館様に殺されるかもね」
「どうしてくれるんだ」
答える変わりにかすがから密書を奪い取ると、 これ以上破けないよう、慎重に広げた。 こうなりゃ中身だけでも見て帰んないとね。
「おい!」
かすがが慌てて俺様から密書を取り返そうと試みるが 時既に遅し。
「ちょっと、何これ!?」
かすがは俺様の問い掛けに 遅かったかというように額に手をあて、嘆いてみせる。 密書には墨で描かれた一人の女。 流れるような漆黒の黒髪に整った顔立ち。 破れているのが残念なくらい、かすがに負けず劣らずとんでもなく美人で、スタイルが良くて、 …ようはまぁ全裸なんだけど。
「それは春画だ」
かすががきっぱりと俺様に言う。
「密書ってこれ?」
「ああ」
「マジでこれ?」
「ああ」
かすがは相変わらず不機嫌そうに言い捨てる。 こんなものを運んでいることを俺様に知られたくなかったのか。 それにしても天下の軍神さまも人間なんだねぇ。 なんだか急に笑いがこみ上げてきて、つい吹き出した。
「うはっ、軍神さんもやるねぇ…!」
「ふざけるな!謙信様はこれを芸術品として―-」
そこまで言いかけたかすがの唇を人差し指を立てて遮る。 かすがは目を見開いて動きを止めた。
「…俺様、すごい良いこと思いついた」
「…なんだ」
訝しげな視線を浴びながら俺様は密書をかすがに手渡す。 かすがは眉間に皺を寄せたまま俺様と密書を交互に見た。
「どうするんだ」
「あのさ、俺様が書くから、かすががモデルになっ「断る」
「いや、服は脱がなくてもい「断る!」
かすがは間髪を入れずそう言うと、俺様を穴が開くくらい睨みつける。 俺様は大きく溜め息をつくと、やっぱり?と肩をすくめた。
「当たり前だ!お前のような奴に聞いた私が馬鹿だった」
「…じゃあ、どーすんのさ」
折角良い案を出したっていうのに。かすがにそう尋ねると、 私はきちんと謙信様にご報告する、と捲し立てるように声を荒げ 密書を器用に懐にしまってさっさと行ってしまった。
「あっ、おい!かすがったら!」
これから武田に帰ってからの仕打ちを想像して、 一人身震いした。

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