耳すまパロ

後ろから強く腕を捕まれ、思わず前のめりになる。
とにかく奴の手が熱を持っていてそれが腕を伝わり、顔にまで上がってくる。

木々の隙間から柔らかい木漏れ日が差し、熱さを緩和させるように夏の風が二人の間を通り抜けた。
「待てよ、かすが。はっきり言え」
抑えられた声のトーンで真剣なことは明白だった。恐らくこちらを真っすぐに見つめているのだろう。頭の後ろから痛いくらいに視線を感じた。
とてもじゃないが奴の目なんか見れるわけがない。普段めったにお目にかかれない熱っぽい瞳がそこにあった。
“こいつも男なのだ”と認識した時から罪悪感と後悔が同時に押し寄せてくる。
(鈍いのは私じゃないか―――)
出来ることなら5分前に戻ってやり直したかった。そうしたら、すぐに家に帰って風呂に入って寝るのに。
こんなところにはまず、立ち寄らなかっただろう。
しかし時間は待ってはくれなかった。

答えを急かすように男の手に力が入る。
腕を捕まられているだけだというのに、まるで心臓を鷲掴みにされているような感覚。
やっとの事で口を開いた。
「お前とは、ずっと友達だったから…、」
声が震えるのを必死で抑える。
「佐助のことは好きだが、好きとかそういうのじゃ…、悪いが、うまく言えない」
うつむいたまま言葉を切ると佐助は言った。
「ただの友達か?」
心なしか佐助の手も震えているような気がする。私は静かに頷く。
「これからもか?」
もう一度。
佐助はたっぷりと時間をかけて最後の言葉を言った。
「そうか」
言葉が切れると同時に捕まれていた手が解放される。私は振り向きもせず、そのまま逃げるようにその場を後にした。





誰だこれ

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