写真の中ですら、先ほどまでの真剣な眼差しが熱く感じられるのは――自分の写真の腕がいいからなのか。
撮影した画像をパソコン上で見つめながら、編集ソフトでごみ取りをする放課後。
"白いレオタード"という古き良きコスチュームに身を包んだ彼女を見て、伝統とは素晴らしいものなんだなぁとひとりごちた。
確か、かすがブロマイドの予約人数は十人ほどだ。
この伝統的なコスチュームのおかげで、近頃の俺様の財布は暖かい。

地区予選が近いとかで、最近のかすがは実に熱心だ。毎日遅くまで練習している彼女を、毎日遅くまで撮影する俺様。
特に予選が近い部活動には、写真部は付きっきりになることが多い。

この部活の良いところは、こういう熱い人間をファインダー越しに眺めることができる点だと思う。
自分自身がそこまで熱くなることが少ない分、そう感じる。
かすがを写したこの写真には、少なからずその時の熱が残っている気がして、
これをもらえる男どもには、追加で金をもらってもいいくらいだ。

自画自賛していると、唐突に部室の扉が開く。
驚いてかすがの胸のアップを消す余裕もなく、振り返った。

「おい、何をしている!」

悪いことに本人である。
慌てて閉じるボタンを押して、保存しますかに「いいえ」をクリックしてしまう。
ヤバイ、保存してたっけ?と思い悩む暇もなく、矢継ぎに言葉が飛んでくる。

「部室で不埒な真似はやめろ」
「いや、別に不埒なわけじゃなく…」
「お前の趣味はとにかく、今までの写真を見せて欲しいんだが。」
「え、別にいいけどなんで?」
「フォームの確認だ。鏡では限界があるからな。」
「まぁ、研究熱心なことで。」

改めてパソコンデスクの前に座りなおし、今日のフォルダを開く。
まだ調整前の画像であることは前置きして、サムネイルを最大サイズにした。

「な、なんだ!顔ばかりじゃないか」
「いやぁ、そりぁ顔が売れ…いや、あれだよ、表情。」
「表情?」
「そうそう、運動部の人間ってみんな揃って表情がいいんだよね。
特に瞳?熱があってさ。それを撮るのが俺様のこだわりなわけ。」

「……あ、それを大きくしろ」

俺様のこだわりは華麗にスルーされたわけだけど、かすがの華奢な指は、全身が写った写真を指し示す。
クリックして大きくすると、彼女は一歩引いて眼を細めた。

「やはり、右側のバランスが悪いな…」
「もう少し重心をずらすか…」

その後、ブツブツいいながら何枚か写真をピックアップする。

「お前、私以外には撮らないのか?」
「え。」

確かにほとんど、かすがだらけのフォルダは――まぁ何というかバツが悪い。

「需要と供給というか…人類の真理というか…」
「訳の分からない御託はいい、もっと…なんというか、全体を撮れ!」
「私を撮るにしても、もっと外野と絡んでいるときというか、指導されている感じが必要だろうが!」

「指導…?」
「た、例えばだ!こんな風なやつだ!」

指が向いた先は、端っこに小さく上杉コーチが写り込んだ写真だった。
…なるほどね。

「二人で写ってるのもあるよ」
「何!?」

実は撮った写真は熱い感じがするフォルダと、熱が弱いフォルダに分ける。
完全に主観だが熱が弱いフォルダはなんか少し苦々しいというか…

苦々しい?

自問自答して、かすがを見つめれば、視線はまっすぐ帰ってくる。

「あー…」
「な、なんだ?」
「いや、なんでもない」

苦々しいの理由はあんまり気がつきたくはなかったんだけど。
上杉コーチの写真ばかりがそっちのフォルダに入っていることに気がついて、自分が少なからず妬いているのだと自覚した。



恋のはじまり

 

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