こたつでみかん

立冬を過ぎ季節はめっきり冬らしくなって、我が家でも早速こたつという名の暖房器具が活躍していた。
(それはお姫様たっての希望で、ホームセンターを何件もはしごして往復した俺様の涙と汗の結果なんだけれども)
「うーさむぅ」
冷えた身体で部屋に入るなり、こたつへ潜り込む。
足下からじりじりと熱が伝わって、なんとも言えない幸福感に満たされる。
こたつの上にはみかんなんか置いてあって、いいねぇ、風情だねぇと顔が綻ぶ。
「入って来るな」
人が折角幸せな気分に浸っているっていうのにこたつの左側の側面で寝そべって読書なんかしちゃってる女は
そっけなく言った。
「ちょっと、このこたつは俺様が苦労して組み立てたんでしょーが」
「発案したのはこの私だ」
かすがは本に目を落としたまま偉そうに反論するとページをめくる。
(さすがにひどすぎるんじゃないの…!)
俺様は下唇を噛み締めて気づかれないようにかすがを睨むと、自分の足をかすがの脚へと押し付けた。
「ひやぁああ!」
何とも間抜けな悲鳴が上がって、かすがはガタガタと音を立てながら思いきりこちらを睨みつける。
「つ、冷たいじゃないか…!」
「誰が風呂掃除してると思ってんの!」
「さ、さあな」
かすががまだとぼけるので(俺様の苦しみを味わえ!)
またもや足をかすがに押し付けると今度は猫の悲鳴のような何とも形容し難い声を上げた。
かすがが勢い良く跳ね起きると、やめろと頭をはたかれる。
「ごめんなさい、いつもありがとう、は?」
じっとかすがを見つめると照れくさいのか何なのか彼女は舌打ちをして目を反らした。
「かすが」
「うるさい」
「かすが」
「わかっている…悪かった。いつも感謝はしている」
フンと蚊の鳴くように呟いてまたごろりと床に寝そべった。
全く素直じゃないんだから。

こたつの上のみかんを一つ手に取るとへたの部分に親指を入れて皮を剥く。
「俺様今とってもあったかいよ。心も体も、ね」
「…私はとても寒い」
かすがはまたページをめくった。

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