この恋、きみ色

「ねー、かすがはさぁ?」
夕飯のときに、ふと佐助が遠い目をして言う。
この時間にこういう出だしの場合、面倒くさい内容であることは長年の勘でわかっていた。なるべく反応しないよう、おかずを口に入れなんだと答える。
「俺様と毎日毎日顔をあわせて、飽きない?」
「………」
ゆっくりと咀嚼してから男の顔を見やる。男は困ったような、うれしそうな、形容しがたい表情をしている。
「…そんなことを聞いてどうする」
「いやね、巷ではさぁ、通い婚みたいのが流行ってるって聞いたからさ」
「通い婚?」
「刺激を失わないように一緒に居すぎず付き合いたてを持続させるようなあれだよ」
「貴様と私に刺激も糞もないだろう」
「刺激も糞もって…ちょっとくらい…あるっしょ」
仮にも男女なんだし、という男の悲痛な声を無視しお茶をすする。今更何を言い出すかと思えば。箸を男に突きつけてにらみつけた。
「…逆に問うが。お前は私の顔ばかりで飽きるのか?」
「………」
私の顔をじっと見つめる佐助。真剣な顔はすぐに破顔した。
「いやぁ、四六時中見てても飽きなそう」
「………」
そんなに私の顔は面白いか、と言ってやろうかと思ったが余計な会話を増やしたくなかったのでぐっと飲み込んだ。
「でもさ、ほら、俺ら土日にどこか遠出するわけでもなく、ディナーとかレジャーとかロマンスとかさ」
「…要領を得んな」
「どっかデートとかしたいって不満が溜まってたら嫌だなぁと思って」
「はっ」
嫌味丸出しで鼻で笑ってみた。
「鼻で笑わなくたっていいじゃん」
「気にするだけ無駄だな」
呆れたようにため息をついておかずと一緒に米をかっこんだ。
「いやでもさ、乙女心ってやつは?」
「何が乙女心だ」
「デートしたいとか、ロマンチックしたいとかさ」
「ロマンチックしたいというのはどういうことだ」
「…俺様乙女じゃないからわかんないけど、こう悶々とすることじゃない」
「絶対に違うな」
佐助を全否定して、茶碗をテーブルに置いた。
「…いいか?」
「は、はい」
「私たちは私たちらしくやればいいんだ。別にほかの人間がどうかなんて関係ないだろう。お互いのペースでうまくいっているんだ。それでいいじゃないか。一体それになんの文句があるんだ?」
最後まで一気にまくし立てると、佐助はぽかんとした顔で私を見ている。
「……なんだ、じろじろと見るんじゃない!」
「かすが…」
男の瞳がわずかに潤んでいるようにも感じられ私は焦った。
「いや、ち、違うぞ、そもそも貴様と私はそういう関係じゃないし」
戦友みたいなものだとしどろもどろしていると、男はうれしそうに手を合わせる。
「ごちそうさま」
「あ、ああ…」
「俺たちらしく、ね」
「…そうだ」
「じゃあさ、今度忍者屋敷にでも行ってみよーか」
「は?」
好きだろ?と目配せをされ、思わず目を丸くした。確かに元来、忍者屋敷や昔の日本を題材としたものは好きな性質だ。
全くこの男は、実に抜け目なく、実にやっかいである。
小さくため息をついて、また鼻先で少し笑ってやる。
「…いいな」

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