この感情を何と呼ぶ

「いつまでもトキメキってやつは持続しないんだぜ? 」

橙色の男は、ビール缶片手にゆらゆらと言う。

私は、それを無視して酒のつまみを流し込むように自分の缶を一気に飲み干した。

 

時刻は深夜1時。 明日が休みの時は、夕飯をだらだらと食べながら酒盛りが始まることが多々ある。

佐助は私の飲みっぷりを褒めながら、先ほどの台詞をもう一度言った。

「なぁ、トキメキってやつは持続しないんだぜ? 」

「…何が言いたい?」

自身の声のトーンに結構酔いが回ってきていることを自覚する。

「 だからぁ、あの謙信様だって人間だから。」

「当たり前だ、人間以外であってたまるか!」

「ゲップだってするし屁だってこくんだって。 」

「はっ、馬鹿な。謙信様は屁などこかない!!!」

「 こくっつーの!」

「 こかない!」

男はふぅとわざとらしくため息を吐いて、大真面目な顔で言う。

「 いいか?かすが。今はまだ奴のいいところしか見えてないけど、絶対そのうちボロが出て幻滅するんだって。 」

「幻滅などしないし謙信様はボロなど出ん。 」

「 でも屁こいたら?」

「 しつこいぞ!こかないといっているだろう! 」

ダメだこりゃ、という具合に佐助は自身の顔を手で覆った。

「かすが、お前は今奴の色香に惑わされてるけど、そのうちなんとも思わなくなる時が絶対来る。 何十年も年を重ねたらお互いに、だ。 だからこそ、結婚相手は親友みたいな関係のがいいんだって。」

「そんなことあるわけ――――」

一体どうしたいのかこの男は。要領を得ない問いかけに思わず眉間に皺が寄る。

「よくいうじゃん、残るのは情だけってさ」

「………」

「一理あると思っちゃった? 」

「思ってない。」

「 でもさ、マジで思わない? 謙信様との老後の様子がお前に想像できるの? 」

そう言われて思い浮かべる。昼下がりの縁側で、年をとった私と謙信様………。

「………………」

「 な?想像できないだろ?」

「…謙信様は老いたりしない」

「人間じゃないね、それは。」

「……き、貴様!私をおちょくって楽しいか!!」

「いやいやいや、おちょくってるっていうかさ、俺様との老後も想像してみてよ。」

「想像したくない」

「老後って言われた時点で一瞬で思い描けただろ?」

「……」

「 このままずっと同じようなことしてると思わない?」

悔しいが、それを想像することは謙信様との時より容易かった。

こいつとは現状維持で年を取っていても酒が飲めそうだ。

「ほら、想像できただろ?」

「………」

「やっぱさぁ、俺にしておけって。 」

「絶対に嫌だ」

飄々と軽口をたたく男を睨みつけ、そんなことを考えるのは御免だと顔をそむける。

私は別にときめきが欲しいわけではないし、そういう風にこいつに思われていることが腹立たしい。

「私は別にときめきなんて求めていない」

「そーお?」

「お前とはずっと…」

「ずっと…?」

「いい親友でいられそうだな!」

がっくりと肩を落とす男を他所に、 先のことなんてまだわからないし、謙信様は絶対におならなんかしないが、こいつとのこういう時間はあっても悪くない、それだけだ。

とりあえずおかわりもってこいと缶ビールをあごでしゃくった。

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