恋バナ

「恋は、良いもんだよ。」
前田慶次が熱っぽい瞳で言う。 恐らく、想い人のことを思い出しているのだろう。 団子屋で団子を頬張りながら、俺様は訝しげに男を見る。
恋は、綺麗ごとばっかりじゃない。
自分のエゴにまみれた、 汚い感情にも直面するはずだ。
それでも恋は良いと言い切れるこの男を、 恋をしても汚れないこの男を、 改めて羨ましく思った。
「アンタさぁ、愛した女が手に入らないとき、自分のものにしたいとか、 誰にも渡したくないとか、そういう感情はないの?」
もう一つ団子を口に運びながら問いかけた。
「そりゃあ誰にだってあるだろう?」
慶次は笑いながら言う。 じゃあなぜそんなに平気な顔をしていられるのか。
「愛した女を奪おうと思ったとき、その人がそれで幸せになれるかを考えるんだ。」
「幸せ、ねぇ。」
「俺じゃ、その人を幸せにすることは出来ないんだよ。」
慶次は遠くを見つめるように目を細めると、 誰に向けたわけでもなく微笑を浮かべる。
「俺が出来なくても、別の誰かが、その人を幸せに出来るなら、それで良い。」
「…アンタも、苦労人だねぇ。」
そう言って、お茶をすすった。 それは、余りにもたくさん傷付いて、迷って、考え付いた結果なのだろう。 そんなふうにすっきりとしたアンタを見ているとそう思う。
「いやぁー!アンタには負けるよ!」
背中を思い切り叩かれて、器官にお茶がなだれ込む。 むせながら涙目になった俺様は、やっとの思いで言った。
「いやそれ、勝っても嬉しくないから」

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