きっと夢中にさせるから
夕飯を食べ終わった後、ソファにもたれかかり虚ろにテレビを眺めている女の気が引きたくて、声をかけた。
テレビではくだらないバラエティ番組で手相がどうとかで盛り上がっている。
「…俺様もさ、手相見れるよ」
唐突なセリフに、彼女は面食らったようだ。テレビに送っていた視線を、ゆっくりと俺様に戻すと怪訝な瞳で呟いた。
「…だからどうした」
「見てもらいたくない?」
「…別に…」
「見てもらいたいでしょ?」
「別に見てもらいたくない」
「見てもらいたいよね?」
「……」
「ほら、結婚線とか気になっちゃうでしょ」
「……」
「ほら気になってる目をしてる」
「……」
さぁさぁ手を出してと半ば強引に促すと、かすがは観念したように手のひらを差し出した。
その手をとっておもむろに握る。…手を握るなんて、実に3か月ぶりである。
「………」
しばらく手を握っているとかすががわめく。
「おい、さっさと見ろ」
「ん?」
「そっちは手の甲だぞ」
「へいへい」
残念だが言ってしまった手前仕方がない。かすがの手のひらを裏返すと目を細めじっと見つめた。
「………」
天井のライトに手のひらを反射させるように二三動かしてみる。
かすがはすこぶる怪訝そうな顔をしていた。
「こ、これは…!」
「な、なんだ?」
「…あ、あと、二年…いや一年ぐらいかも」
「な、何がだ?」
「………」
彼女の手のひらを左手で握ったまま俺様は眉間を右手で抑えた。しばらく意味深長に黙っているとかすがは少し心配そうな表情で聞いてくる。
「ま、まさか寿命か…?」
「いや…でもこれはすごいよ」
「な、なんだ?!もったいぶらずに早く言え!」
「あと一年で、かすがは……」
かすがは息をのむ。
「俺様と結婚する」
「……」
その一言でかすがの瞳がお月様みたいに真ん丸になったのを確認した。実によいリアクションである。
「…大丈夫だ」
「へ?」
思いのほか彼女は冷静のようだ。
「何が大丈夫なの?」
あとに続く“だってあと数年で俺様と結婚しちゃうんだよ”は飲み込んだ。
「手相は変わるらしいからな」
「……」
「大丈夫」
「何がだ」
「俺様無しでは生きられない体にしてやる」
「…勝手にしろ」
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