キス

佐助と付き合い始めて数ヶ月が経って、いよいよ避けて来た事態に直面してしまった。
いつものように学校帰り、私の家で何となく過ごす。
ボーっと雑誌を眺めていると、奴は突然真剣な表情で言った。
「俺たちさぁ、付き合って結構経つよね」
「ああ、そうだな」
そっけなく答えて雑誌のページを何気なくめくり、お茶をすする。
「で、いつキスすんの?」
「なっ、」
危うく吹き出しそうになるのを懸命に堪えて佐助に目をやれば、相変わらず真剣な眼差しに背筋がぞくりとする。
何も言えなくて黙っていると佐助の方から口火を切った。
「キスしてくれないのは俺様のこと好きじゃないから?」
「いや、それは、」
「じゃあなんで俺様と付き合ってんの?」
「だから、それは、」
「どーせ俺様のことただの便利屋ぐらいにしか思ってないんでしょ?」
こいつは放っておけばどんどんこんなことを口走る。だんだん私は苛立ってきた。
「誰もそんなこと言ってないだろう!」
「じゃあキスしてよ」
「なっ、何を…!」
「好きなら問題ないよね?」
「…それとこれとは、話が別だろう」
全身が燃えるように熱くなるのを感じながら、消え入りそうに呟くと、佐助はじゃあ今日は帰らないなどとだだをこねる。
「明日も学校だろう!」
「そんなの関係ないよ、俺様はかすががキスしてくれるまでこの家に泊まる」
「―――――ッ!」
このときばかりはさすがの私もこんな男と付き合った自分の愚かさを呪った程だ。
私はいい加減にしろと声を荒げると、佐助の頬を両側からぱちんと手のひらで挟み込んだ。
「!」
佐助は殴られると思ったのだろう。私の両手に挟まれながら強く目を瞑っていた。
「仕方のないやつだ」
言葉の端に微笑を忍ばせながらそう言って佐助の唇についばむように口づけを落とす。
「なっ…」
今度は佐助が慌てる番だった。
私の手から解放され、みるみるうちに赤く染まってゆく顔を優位になった気で眺める。
「これで満足だろう?」
「ちょ、俺様…」
「なんだ」
「死んでもいいかも」
そう言って自分の唇を手で押さえながら同時に私の唇を見つめる。
「じ、じろじろ見るんじゃないっ!さっさと死ね!」
「ちょっと!俺様最愛の彼氏!」
しまりのない顔でそう言うので増々腹が立って、その辺にあったクッションを引っ掴んで早く帰れと投げつけた。

Since 20080422 koibiyori