「気持ち悪い」

まるでヤンキーの兄ちゃんがそうするみたいに、俺様とかすがはガンを飛ばし合い、真正面から睨み合う。
今にも飛びかかろうといわんばかりに両手を上に上げた俺様の手首をかすがが死に物狂いで掴んでいる。
言うなれば取っ組み合いのような形であるがかすががさりげなく俺様の足を踏んづけているのが痛みを伴う。
「…いい加減離れたらどうだ」
「いやだね」
まるでぐぐぐと音が聞こえてきそうな程、お互い本気だ。
「いーじゃん、減るもんじゃないし」
「駄目だ。確実に何かが…減る」
ちぇ、と口を尖らせて諦めたフリをする。かすがの力がわずかに抜けた隙を狙って、そのまま顔を近づけた。
「や、やめろ!こっちに顔を近づけるんじゃない!」
「大丈夫大丈夫!ほっぺにするから!ね!」
「駄目だ!お前は、目が笑っていない!」
嫌々と首を下に向けて、かすがは俺様の唇から逃れようとする。俺様はなんとかかすがに近付こうと力を入れてるはずなのに、掴まれた手首はうんともすんとも言わない。
女のくせに何という力か。というかそこまでして俺様の事が嫌いなのか。
一人で色々な意味で悶々としていると、かすがが諦めたように大きく溜め息を吐いた。
「…わかった、じゃあ私からしてやるから、目をつむれ!」
「え?マ、マジで?」
突然そんな事を言われたもんだから、ちょっと狼狽える。
まじまじとかすがに目をやれば、かすがは気まずそうに目を反らした。
「マジなの?」
「マジだ」
「口にだよ?」
「ああ」
「ほっぺじゃ駄目だよ?」
「わかっている」
「おでこもなしね」
「ええい、うるさい奴だ!さっさとしろ!」
あまりに嬉しくってうまく口を閉じられない。口角をあげたまま俺様は静かに目を閉じる。
かすがはそれを確認すると、静かに俺様の手首を離した。
「や、優しくしてよ?」
いつ唇に柔らかな感触が押し付けられるかと思うと一人でどうしようもなく胸が高鳴る。
かすがも照れているのだろか。
わくわくしながらキスを待つが中々それはやってこない。
照れてるにしちゃ焦らし過ぎなんじゃないの?

そう思ってこっそりと目を開ける。
目の前にはかすがはいなかった。

あれ?まさか歯を磨きに行ったとか…ないよね?
薄目のままあたりを見回すと、ソファで何事もなかったように寝転んでテレビを見ているかすがが見えた。
「ちょっと!キッスは?」
目を開けて思わずそう声を上げると、めんどくさそうにかすがはこちらに顔を向ける。
「誰が好き好んで接吻なんてするか!気持ち悪い」
えー、とまるで空気が抜ける風船みたいな声が出て、俺様はその場に崩れ落ちた。

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