かすががありえないくらいデレデレ

「佐助ぇ」
仕事帰り玄関を開けると、まるで新妻かなにかのように甘ったるい声色でかすがが俺様にすりよってくる。
なに?何これ、夢?インムってやつ?
普通ではありえない状況に思わず頬をつねるが、つねった所はぴりりと痛い。
夢じゃないことを確信し、思わず飛び上がりそうになったが、それを懸命に堪えてあくまで紳士に、対応する。
「かすが、俺様、謙信様じゃないよ?」
「そんなことはわかっている、お前が良いんだ、お前がぁ!」
かすがは最後まで言い終わらないうちに俺様の胸に飛び込んで来た。
抱きつく、というよりはもたれかかるような格好に近いが、いつもとは明らかに違う対応に思わず身を固くした。
「ちょ、ちょっとかすがったら」
「うるさぁあい!黙って私の言うことを聞けぇ!」
そのまま強引に唇を奪われて、ますます俺様は動けない。
同時にすごいアルコールの匂いに面食らった。
「うわ、酒くせぇ!」
みれば廊下に転がる一升瓶2本。
転々と酒と思われる透明な液体が床に広がっている。
どう考えたって酔っているとしか思えないけど、ここまで泥酔しているのは初めてかもしれない。
「ちょっと!かすが、飲み過ぎ――っていうか今日仕事は!」
「わたひはお前が好きらって言ったらどうするんだお前はぁ!」
質問の答えになってないし、完全に呂律も回っていない。
さらに目も座っているが、瞳の奥がなんとなく鋭く光った気がして思わず背筋がゾクりとする。
「の、飲み過ぎでしょうーが!」
やっとのことでそう言うと、かすがは「み、ミズぅ」と呟いてその場にへたりこむ。
このまま廊下においといたら色々と床を汚しかねない。
そう悟った俺様は慌てて台所へ走ると、コップに並々と水を汲んでタオルと洗面器もいっしょにかすがに差し出した。
かすがは俺様から水をひったくると、一気に口に流し込んで、大きく深呼吸をする。
今にも吐きそうな顔色だったが、水を飲んで落ち着いたのか、急に寝ると言い出して猫のように体を丸めて廊下に横たわった。
「ちょっとちょっと、風邪引くよ」
完全にダウンしたのか俺様が声をかけても、かすがの返事はない。
仕方なくかすがを抱きかかえると、かすがの部屋に運んでベットにそっと降ろした。

布団を肩までかけて部屋を出ようとすると、足に違和感を感じる。
見るとかすがの手がズボンの裾をしっかりと握っていた。
「かすが!手ぇ、離して!」
「いやだぁ」
「もう寝るんでしょ?」
「隣にこい」
「はい?」
「一緒に寝ろ!」
かすがはそう言うとぐいぐいズボンを引っ張って俺様をベットへ引き込もうとする。
「か、かすが…」
「早くしろ!」
俺様スーツのまんま、飯も食ってないっていうのに仕様がなく、かすがのベットに潜り込むと、そんなこと忘れちゃうくらいかすがの甘い匂いが鼻先をくすぐる。
「かすが」
「なんだ」
「…俺様我慢出来るかわかんないよ」
「よからぬことをしたら殺す」
酔っている割には恐ろしく低い声でそう言いながら、ちゃっかりと俺様の腕に自分の腕を絡ませる。
そしてすぐに寝息をたたせるのだからたまらない。かすがの熱を肌で感じながらそっと囁いた。
「片乳くらいだったらいい?」
もちろん殴られた。

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