彼と彼女の城

春から夏へ季節が向かう中。いつものように会社と家の往復。

そんないつもの毎日になるはずだった帰り道。
駅に佐助がいた。スーツに自転車。仕事帰りか。

佐助は幼なじみで、お互い別々の会社に就職した後もときどき会ったりしていた。(佐助が一方的に、だが)
まぁ所謂、腐れ縁ってやつだろう。
「お前、こんなところで何をしている」
「何って、お迎えでしょーが」
「は?」
「さぁ、乗って乗って!」
分けも分からず佐助に促されるまま、自転車の荷台にまたがる。
今日はパンツスーツで良かった。佐助の腰のあたりを手でつかむ。
スーツでごわごわとしていたが、佐助の体温が伝わってくる。
同時に佐助の匂いがして、何とも言えない気分になった。
そのまましばらく走り続けて、あきらかに目指す先は私の家の方角ではない。
「おいっ、どこに行くんだ!?」
佐助は答えない。答えはなくても何となくわかる。
その道は、その先は…
「はいっ。俺様のお家にとうちゃーく!」
やはり、思った通り。眼前には見慣れた家が建っている。
こんな立派家に一人暮らしだなんて、親は何を考えているのだと、初めて家に行ったとき思った。
詳しい事情は聞かなかったけれど。
「貴様、死にたいのか?」
まぁまぁ、と佐助になだめられ紙を渡される。その紙はどうやらチラシのようだ。
黄色い字で『押し込み強盗注意!』とでかでかと書いてある。
その下には小さな文字で、事件の概要とこの付近の住所、犯人の特徴等が書いてあった。
犯人はまだ捕まってないらしい。
被害者は一人暮らしの若い女性。

私は一人暮らし。
佐助も一人暮らし。

私は紙と佐助を交互に見る。
「……」
佐助は満面の笑みで言う。
「我が城へ、ようこそ」
今夜は、無事に帰れるだろうか。

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