絡み酒2

きつい酒のにおいをまき散らしながら、彼女はへべれけで帰ってきた。 玄関先に出迎えにでた俺様を一瞥するなり、気持ちが悪いと倒れ込む。
「おいおい、大丈夫?」
ぐったりと項垂れた髪の隙間から覗く瞳は赤い。 さらに手元に口を添えて一言。
「…吐く」
「げ!トイレトイレ!」
慌てて彼女の脇の下へ手を突っ込むと、そのまま立たせようと試みた。
「きさまぁ、そういうときは手を出してここに吐け、だろうがぁ!」
「な、何いってんの!んなことできるか」
「わらしなら、謙信様のゲロなら喜んで口で受け止めよう!」
「馬鹿いえ!早くトイレトイレ!」
「そうか、お前は私のゲロは受け止められないんだな」
「いやいやいや、今そ~いう話じゃないでしょーが!」
「いわ!そういう話だ、謙信様は私のゲロをうけとめてくれるだろうか?」 吐きたいわりには、ずいぶん饒舌である。
「いやいやいや、だからさぁ…」
「…うまくしゃべれないんだ」
「へ?」
「やはりあの方の前だとあがってしまう」
「……」 なーんか話が嫌な方向に転がりそう。 耳に蓋でもしてしまいたかったが彼女は止まらなかった。
「自分の弱い部分をさらけだせない相手とはうまくいかない、と聞いたんだ」
「…だからそんなに酔っ払ってきたわけ?」
「さらけだそうと思ったんだ、…だが駄目だった」
そりゃ酒の力を借りるんじゃねぇ、とは口が避けても言えなかったが、 とりあえずかすかの肩を叩く。 どうやら具合が悪くなってすぐに帰ってきたらしい。 土壇場になって愛しの謙信様にゲロを吐くのを躊躇ったのか。 どーせなら思う存分吐いてもらいたいくらいだ。
「謙信様は私が吐いたらひくだろうか?」
「んー、どうだろうね」
「お前はひくか?」
「いや、俺様は別に引かないけど」
「なんでお前は引かないんだ!」
「いや、なんでってそりゃ………」
「…………」
お互いが言葉につまったところで、 かすがの頬がふぐのように大きく膨らんだ。 こりゃやばい。
「とにかく!トイレトイレ。水持ってくから。」
かすがは何も言わずに地を這うようにトイレへ向かうとドアも締めずにオエッと喘ぎだした。 それを確認してから台所に入ると、コップに水道水をなみなみついでトイレへ向かう。
「ほれ、水だよ」
そこにおいとけ、のジェスチャーとともにかすがはゲーゲー言う。 全く、これりゃ謙信様には見せられねーな。 苦笑して彼女の背中をひとなでした。

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