楽しい社内恋愛~上司編~

「あー!いたいた!」
やっと見つけたと騒ぎ立てながら上司が給湯室へ入って来る。
私は丁度お昼のお弁当箱を洗い終わったところだった。
「ね、この書類、悪いんだけど夕方までにあげてくれる?」
薄っぺらい書類をひらひらとさせながら、それを私に手渡した。
これくらいの量ならば、仕事の合間に片付けられるだろう。
「あ、はい、猿飛さんのデスクに置いておけば良いですか?」
「うん、それで良いから頼むよ」
「わかりました」
事務的に返事をして会話は終わったはずだった。
しかし上司は未だ私の目の前に立ったまま、微笑みを崩さない。
「…まだ、何かあるんですか?」
訝しげにそう聞くとあ、わかる?だなんて肩をすくめてみせる。
なぜかその一連の動作に苛つきを覚えたが、“なんですか”と先を促した。
「一応さ、注意事項を付せんに書いたから見てくれる?」
「わかりました」
言われるまま書類の一枚目に目を落とすと、
でかでかと貼り付けてあるピンク色の付せんが目に入った。
ボールペンで書かれた箇条書きを黙読する。
『・納期明日午後いち
・原稿はワード
・本文初めの文字は、1文字分改行』
付せんには当たり障りのない注意書きが書いてある。
しかしよく見ると、その一番下には
『08010593150』
と数字の羅列が明記してあった。
何かのパスワードだろうか。
探るように上司の顔に視線を戻せば、
彼は見透かしたように何か質問は?と囁くように言う。
「なんですか?最後の数字は」
「俺様の電話番号」
「…緊急連絡用、ですか?」
「緊急と言わず毎日電話してくれる?」
「は?」
意味が分からず聞き返しても上司の表情は変わらないまま。
「ちなみに、今日の夜は空いてるかな?」
引きつった顔で空いてませんと答えるのが精一杯だった。

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