地震 ※猿飛佐助ボイスギャラリー ボイス13「揺れる地面は苦手なんだよなァ」から妄想

突然 大地が割れんばかりに大きく揺れて、 俺様の足もそれに共鳴するようにがくがくと震えた。
「おっとォ…!」
バランスを崩してその場に四つん這いになる。 昔からこの揺れが大の苦手なわけで。 真田隊隊長としては最高に間抜けな格好で 俺様は地面に小さく丸まっていた。 きつく目を瞑り、歯を食いしばって横揺れに耐える。 ほんの数秒のくせに死期の走馬灯のように長く感じられ、 額に嫌な汗が滲む。 こんな姿大将に見られでもしたら、 情けなしとかって思いっきりケツを引っ叩かれそうだ。
心の中で苦笑しながらゆっくりと身体を起こすと 揺れはすっかり収まっていた。 ふぅと安堵の溜め息をつく。
「やれやれ…さすがの猿飛佐助も天変地異には勝てないってね」
汗を拭いながら誰に言うでもなくひとりごちて呟くと、辺りを見回した。 こんなとこ誰かに見られたら大変だ。 俺様の沽券に関わる。 静かに気配を研ぎすますが、人がいる気配はない。 どうやら誰もいなかったみたいだ。 ゴホンと大きく咳払いをして 道場の方へ戻ろうというときに、後ろから声を掛けられた。
「おい」
高めの女の声。 聞き慣れ過ぎたその声に身を堅くした。 まるで蛇に睨まれた蛙のようにその場に立ちすくむ。 (み、見られた?) 心臓がどきりと嫌な音を立て、ひやりと背筋が寒くなる。 動揺を悟られないようにきつく口を結ぶと、意を決して後ろを振り向いた。
「よう!かすがじゃん、わざわざ にっくき武田まで何しに?」
顔に営業用スマイルを貼付けて、一言一言 言葉を選びながら何事もなかったように振る舞う。 かすがはそんな俺様をつま先から頭のてっぺんまで訝しげに眺めると 口の端をわずかに歪め、鼻で笑った。 どうやら俺様の弱点はまんまと彼女にお見通しらしい。
「…言うなよ」
「フン、お前にも苦手なものがあったとはな」
かすがは呆れたように笑う。 俺様だって人の子だってば。
「と、とにかく、今見た事は忘れろよな」
釘を刺すように睨みつけると、 かすがはああと短く言って懐から文を差し出した。
「なにこれ」
「謙信様から武田信玄に、だ。必ず本人に手渡せ」
かすがは大将の名を出すとわずかだが眉間に皺を寄せた。 よっぽど大将が憎いらしい。
「んー、伝令使えばいいのに」
「謙信様の大事な文だ。伝令なんかには任せられん」
「そんな事言ってもしかして俺様に会いに…「来てない」
かすがはきっぱりと言いきると、くるりと踵を返した。 そして上半身だけをこちらに向けて言う。
「…謙信様が聞いたらさぞお笑いになるだろう」
微かに微笑みを浮かべ――すぐに真顔になったけど―― 空にとけ込むように消えた。 一瞬何のことだかわからずに放心したが、すぐに地震の事だと気づく。
「い、言うなってば…!」
大声で叫んだけど そこにはもうかすがの姿はなかった。

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