祈り

それは、何日か頭から離れない、 本当に嫌な仕事だった。
(おめぇさは、愛する女すらも、そうやって平気な顔して殺すだか?)
あの子供の声が、耳から離れないんだ。
もちろん答えはYES。そんなこと分かりきってる。
平気な顔でいられるかは、わかんないけど。
俺は迷わず殺すよ。 それが仕事なら、ね。
(かわいそうだべ)
可哀想? だってさ、 俺の他に誰があいつを殺るの?
お館様にも、旦那にも、殺らせはしない。
俺が殺るんだ。 あいつを殺すのは俺だけだ。
俺を殺すのもあいつだけだ。
そうやって生きてきたんだ。 それが俺の支え。
(悲しくないべか?)
悲しくなんかないさ。 忍びになったときから、 悲しいっていう感情は捨てたんだ。 何も感じないよ。
(おめぇさは、悲しい人だべ)
そんなことは、とうに決まっていた。
でも、それでも俺は、 あいつと同じ忍びで良かった。
こんな気持ちを分かってくれるのも、あいつだけだ。 っと、しゃべりすぎたな。
じゃ、悪いけど、 これも仕事なんだ。 あきらめてくれよ。 さいなら。
(今度)
彼女の最期の言葉が
(今度生まれてくる時は、 オラも、おめぇも、愛する人と結ばれる時代だといいべな)
笑顔が
(おめぇの幸せを祈ってるだ)
笑うなよ。 これでまた一つ、罪悪感が増える。
殺したぶんだけ、何かを背負う。

まったく…。 いやな職業だねぇ。
来世に生まれるであろうアンタのために祈るよ。

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