幅袋大作戦

「最後尾はこちらでーす!」
やたらと厚着をしたお姉さんが長い行列の最後で声を張り上げる。現在時刻は午前9時だというのに、駅のコンコースは大勢の人でごった返していた。
1月2日の福袋、初売りを目当てに駅ビルに並ぶ人、人、人、人。自分もその一人なんだけど人の大洪水に思わず溜め息が漏れる。
俺様が一人で並んでいる遥か彼方で同じく人に紛れているかすがに目をやればそんな一部始終を見られていたのかかすがは何やらぱくぱくと口を動かしている。
遠くて分かりにくいけど、たぶんあれはガ・マ・ン・シ・ロ だ。
苦笑して指でOKのサインを作ると、そのまま手のひらを手前に返してお金の形にする。もちろん“後でおごってよね”っていう意味。かすがはそれを見た途端面食らったような顔をしたがしぶしぶ頷いた。(やったね!)

かすがの福袋大作戦に付き合わされてこの状況。大作戦のミッションは、二手に別れてそれぞれ別々の福袋を手に入れるようだ。それにしたって開店時間まであと1時間もある。
こうやって女の子ばかりが並んでいる行列に一人身を置くのは肩身が狭いけど、これもかすがのため。
さっき別れる間際に渡された1万円を握りしめ、どうか誰にも会いませんようにと本気で願った。
「あん?猿飛じゃねーか」
どこかで聞いた事があるような声が後方から飛んで来て思わず身を固くした。
ああ、とっても嫌な予感がする。
俺様こういう勘は外れたことないんだよね。

小さく溜め息を吐いて、でももしかしたら(というかそうであって欲しい)聞き間違いかもしれないし、無視することにした。身体を出来るだけ小さく縮めてみるが周りは女の子ばかりなのでどうしたって頭一つ分は飛び出てしまう。
おまけに俺様の髪色、明るいオレンジ。遠目からはとっても目を引くのかもしれない。
「おい、猿飛。シカトしてんじゃねぇよ」
もう一度自分の名を呼ぶ声が聞こえて来て俺様の周りで一緒に並んでいる女の子たちがざわめきだす。
あの人格好良くない?とかそんなような黄色い声。(見る目ないねぇ)
仕方なく首だけ後ろに回して見れば、案の定、伊達政宗…とお供の片倉サン。
「お前、何してんだ?こんなとこで」
伊達政宗はニヤニヤと腹立たしげな顔で言う。
わかってるくせに本当に嫌な奴だ。
「並んでんの」
「HA!そんなもんは見りゃわかる。ただここはradyが並ぶところだと言ってんだよ」
そう言って最後尾のプラカードを指差した。横文字のブランド名が大きく書かれたプレート。
並んでるのは女の子ばかりだし、そんなの俺様だって分かってるっつーの。
「strangeな趣味がありそうだな」
「猿飛、お前、まさか―――」
片倉サンが顔面蒼白でつぶやく。
ああ、もう!違うっての!
「アンタたちは何しにこんなところに?」
いい加減話題をそらせば伊達政宗はひゅうと口笛を吹く。笑顔がひきつりそうになるのを懸命に堪えた。
「俺と政宗さまはこれから初詣だ」
「ふーん、遅くない?」
「いいんだよ、どうせgodなんか信じちゃいねぇんだ」
「あっそ、じゃあさっさと行ってきなよ」
「ああ、お前も女装趣味はたいがいにしろよ」
「ちょ、ちょっと!」
「政宗様…個人の趣味というものにとやかく口を出してはなりませんぞ」
二人はそう言ってさっさと行ってしまった。
「だから違うって…」
一緒に並んでいた女の子たちの視線がより一層痛いものになったのは言うまでもない。

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