ハロウィン

玄関の扉を開けると、吸血鬼が立っていた。
「トリックオアトリート!」
全身真っ黒な服に、足下まであるロングコート(恐らくマントと言ったほうが正しい)に後ろに流れるようにセットされた髪型。
吸血鬼丸出しの男は満面の笑みを浮かべている。
ご丁寧に犬歯まで生やして。
「…毎度のことだが、よくやるな」
嫌みで言ったつもりだったが佐助はへへーと間抜けな声で笑って、でも好きでやってるんじゃないよと付け加えた。
「会社行事なんだからしょうがないでしょ」
「一体、お前の会社はどうなっているんだ」
呆れながら溜め息を吐けば、佐助がにこにこしながら両手を突き出した。
「何をしている」
「お菓子は?」
「なんだ、本当にいるのか」
「うん。これから慶次たちと待ち合わせ」
「その格好でか」
「みんな仮装してるって。だから今日遅くなるよ」
「夕飯は?」
「いらない」
「ちょっと待っていろ」
「はーい」
玄関から踵を返して台所へ向かう。
台所へ入るなり、たまたま自分用に買ったハロウィンのお菓子が目に入った。
佐助にあげるつもりはないが多めに買って来たやつだ。
仕方ない。他に菓子はないし、これをやるか。
綺麗な包装紙に入った菓子を何個か手に取ると玄関へ戻った。
「これを持っていけ」
佐助に菓子を手渡すと、佐助はこれどーしたのと驚いている。
たまたまだと返せば、気持ちが悪いくらいに笑みを作ってありがとうと言った。
「その顔やめろ」
「えーなんで、嬉しいんだって」
「俺様のために買って来てくれたんでしょ」
「たまたまだと言っているだろう…!」
顔がじわりと熱くなるのを感じてますます変な汗が出る。
佐助はそんな私にはお構いなしに続けて言う。
「かすが」
「…なんだ」
「お菓子くれたけどさぁ」
「ああ」
「帰ってからでいいからさぁ」
「…いいから早く言え」
「いたずらしていい…?」
「………」
私は無言でドアを閉めた。

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