張り倒す ※もしもバサラ3で事故チューがあったら(むしろあれ!)

目を大きく見開いて、右手で唇を抑えたかすがは例によって小刻みに震え出した。
驚愕の表情を浮かべる女を冷静に眺めながら、たぶん殴られるんだろうなぁとごくりと喉を鳴らす。
「な、な、な、なん」
「いや、今のは事故だからね?事故――」
動揺しているかすがをたしなめようと試みるが、最後まで言い終えないうちにまるで獣のように殴りかかってきた。
「ちょ…!」
手で庇おうとするがわずかに遅く、パチンという良い音があたりに響く。
見事なビンタを頂戴して、足下がふらついた。
かすがはさらに畳み掛けようと力ずくで俺様を押し倒すと顔を真っ赤にしてこちらを睨みつける。
「痛いなぁ、ちょっとは加減してよ」
仰向けのまま殴られた頬に手を当ててそう言えば、かすがは容赦なく俺様の胸ぐらを掴んだ。
「ころす…!」
「はぁ?だから事故だっ――「殺す…!」
…完全に混乱している。殺す殺すと物騒に喚く女を下から見上げながら、苦笑した。
「ちょっと、落ち着けって!今のはどう考えても事故だろ?事故!」
わざとじゃないんだからそんなに怒らなくたって、と続ければ、かすがは事故だろうがなんだろうが殺すとドスの聞いた声で言う。
「まさか初めてでもあるまいし、忍びなんだから経験くらいあるだろ」
「うるさい…!そういう問題じゃないんだ!」
「じゃあ何が問題なの!」
「うるさいうるさいうるさい!」
かすがは言葉を振り払うように首を左右に振る。
「…何をそんなに怒ってるのさ」
「うるさい、なぜか苛つくんだ!相手が、お前…だと…!」
悔しそうに顔を歪ませ唇を噛むと、首をうな垂れた。
「そんなこと言ったって俺様に非がある訳じゃないっしょ」
「…………」
「蚊にでもさされたと思って我慢するんだね」
かすがはわざとらしく舌打ちをすると、俺様を睨みつけた。
「くそ、何でこの私が…」
「そんなこと言ってぇ、本当は嬉しかったんじゃないの?」
あえておどけて見せれば、かすがは大きくため息をつく。
「…お前のせいで唇が腫れたらただじゃおかないからな」
「俺様を堂々と押し倒しておいて、良く言うよ」
こんなとこ誰かに見られでもしたらどうするつもり?と意地悪く続ければ、かすがは真っ赤になって慌てて辺りを見回す。
「う、うるさい!お前がいけないんだ」
「はいはい、わかったから。早くしてくんない?」
“重たいからどけ”という意味にとったのか、かすがはわずかに腰をうかせた。
「違うって」
訝しげな表情で俺様を見下ろすかすがの手首を掴んでこちらに引き寄せる。
「押し倒したらまずは接吻からでしょーが」
にんまりと笑ってそう言えば、かすがはふざけるなと吐き捨てて瞬時反対側の頬に鋭い痛みが走った。

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