花言葉

「ごめん!!」
後ろ手で手を組み、頭を垂れる男を見下ろし、 優越感のような苛立ちのようななんとも言えない気分になる。 さっきから気にしてないと言っているのに、男はしつこく謝った。
「しつこいぞ」
「いや、こんなもんで俺様の罪が消えたわけじゃないよ」
「罪は大げさだ、ただのホワイトデーだろ」
「“ただの”じゃないって、“恋人たちの”だって」
「だから恋人たちはやめろ!」
「とにかく、何でも言う事聞くよ」
さぁ言ってみてと言わんばかりにこちらを見つめる佐助を尻目に小さく溜息を吐く。全く面倒な事になってしまった。 たかがホワイトデーのお返しが遅れたくらいでいちいち大げさなやつだ。
「肩もみでも」
「いらん」
「乳もみでも」
「いらん」
「じゃあこれで許して!」
そういうなり後ろに組んでいた手をわざとらしく胸の前に出す。
佐助の手には花束と小さな水色の包み。 それを見て、思わず後ずさった。
「…なんだこれは」
引きつる顔とは対照的に、佐助の顔はにこやかだ。
「花束とプレゼント」
「…見ればわかる。なぜバラなんだ」
「バラの花言葉、知ってる?」
「…知らん」
「愛」

「………かゆい」
「えー?ぐっとこない?」
「1mmも」
花束とプレゼントをこちらを押し付けるようにするので、仕方なく受け取った。
「か、かすが…」
「なんだ」
「受け取ってくれるの?」
「はぁ?」
「お、俺様の愛を受け取ったってことは―――」
「ち、違う、“受け取った”だけだ」
慌てて弁解すれば手厳しいことでと肩をすくめた後、佐助は開けてみてと促した。 バラを脇に抱え水色の包みを開けば、中からはマシュマロとクッキーが入っていた。
「…ホワイトデーっぽいな」
「でしょ」
キレイな包みに入ったマシュマロとクッキーは、どこかのブランドのものだろうか。
「悪いな」
「いーのいーの。特にマシュマロはさ、食べておけば将来垂れないらしいよ」
「……」
「なんでもコラーゲンが入ってるとか入ってないとか」
「……」
「大きさも大事だけどやっぱり上を向いていないとね」
「…何の話だ」
「ん?何だろうね」
私は、小さく溜息をついて佐助がくれたバラの花束の1本を引き抜くと、枝の部分をぽきりと折った。 そして佐助に手渡す。
「何?愛でも返してくれる気になった?」
「バラの枝にも花言葉があるのを知っているか?」
「え、知らない」
「“あなたの不快さが私を悩ませます”」

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