裸でエプロン~BAD END~はじまり

風呂から上がって、バスタオルを巻きつけたまま冷蔵庫を開けると、佐助にもらったあのエプロンが目に入った。
その後ずっとエプロンは正しい目的でしか使用していない。
時計とエプロンを交互に見つめ、
“佐助が帰って来るまではまだあるな”とふと考える。
なんとなく高校や中学の頃に着ていた制服を着てみたくなるのと同じような気持ちでエプロンを手に取ると、特に何も考えずにバスタオルの上から装着した。
そしてそのまま洗面所に行ってバスタオルを脱ぐと、鏡の前で自分の姿を眺める。

前からはいたって普通。(普通ってことはないがそんなに悪くはない)
しかし背中を反らし後ろを眺めれば、自分の背中から尻までが丸出しだった。
普段見慣れない光景に、面食らう。
(…正直言ってこれのなにがいいんだ。)
自身の尻丸出しを見つめながら溜息を吐く。
こんなとこあいつに見られでもしたら最悪だ。さっさと脱いでしまおう。
そう思って洗面所から出ると、同時に玄関の鍵がガチャリと回った。
「!!」
慌てて洗面所に引っ込むと、洗濯機を背にして固まった。
出来ることならこのまま気づかれなければいい。
佐助のただいまという声に反応しないで息を潜める。
佐助は洗面所の前を素通りすると、リビングへ向かった。

ホッと溜息を吐いて、何でもいいから今のうちに着るものを探さないとと思い立つ。
しかしあいにく、洗濯物は既に洗濯機の中で回っている。
しかたなくバスタオルで我慢するかと思った矢先――
「かすが」
佐助が洗面所の私に気がついた。洗濯機を背にしたまま動けない私。
「何してんの?こんなとこで」
「いや、洗濯物をな」
まだ裸にエプロンだとは気がついてないようだ。
「ちょっとその格好…!」
「いや、これは、違うんだ、その、」
弁解にしどろもどろしていると、カッと体が熱くなる。早速気づかれてしまったのか。
「キャミソールに短パンなの?何にも履いてないように見えるよ」
やらしーと声をあげ笑う男を見つめながら、一気に血の気が引いていくのがわかった。
こいつに裸エプロンがばれたらおしまいだ…!
「そ、そうだ、キャミソールに短パンだ。今日は暑いからな」
「ふーん」
佐助はニヤニヤといやらしい笑みを浮かべたまま、その場から動かない。
さっさとあっちに行けと声をあげても突っ立ったままだ。
「俺様もさ洗濯機使いたいんだけど、そこどいてくれる?」
「…こ、ここをか?」
「うん。駄目?」
「いや、その、あっ、私がやっておくから出せ」
「えー、俺様の下着なんだけど」
「大丈夫だ出せ」
「…いつもはいやだっていうくせに」
「気が変わったんだ」
「ここで脱ぐことになるけど?」
「………」
(くそ、ここまでか…)
心の中で舌打ちをすると、じゃあお前がやれといって
洗濯機の前から壁を背にして移動する。
明らかに不自然な動き方に佐助の訝しげな視線が突き刺さる。
「かすがぁ、もしかしてさぁ…」
「なんでもない、さっさと洗濯機を使え!」
半ば遮るように声を荒げると、佐助はやれやれと洗濯機のほうへ向いた。
(今だ…!!)
隙を突いて洗面所から出ると、そのまま自室に猛ダッシュする。
自室の扉を手にかけた瞬間、佐助が私の名を呼んだ。
「………」
振り向くのがこんなに恐ろしいことはない。
まるで時が止まったようにしばらく動けなかった。
ごくりと唾を飲み込んで、恐る恐る首だけ回し振り返ると
佐助が洗面所からこちらを見ていた。
あまりの満面の笑みに絶望で崩れ落ちそうになるのを必死でこらえながら、佐助の呼びかけを無視して部屋に入った。
そのまましばらくベッドで泣いたことはいうまでもない。


浅斗さんへ相互お礼に書かせていただきました!
無駄に長い…!すみません、どうもありがとうございました!

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