裸でエプロン~BAD END~はじまり

台所で洗い物をしていると、後ろから佐助が近づいてくる気配がする。
何かされてはたまらないと、すぐさま振り返って睨みつけてやると佐助は臆することなく満面の笑みでこういった。
「ねー、今日は何の日でしょー」
「…知らん」
ぶっきらぼうに答えても、依然男の表情は笑顔のままだ。
後ろで手を組みながらモジモジする佐助に若干いらつきを覚えながらも、目の前の皿に意識を集中させる。
「…何の日だ?」
「さーて?」
「さっさと言え!私は忙しいんだ」
そう吐き捨てれば、佐助はやれやれと肩をすくめじゃーんというまぬけな効果音とともに私に白い包みを突き出した。
「…なんだそれは」
赤いリボンがかけられたノートよりは少し大きめな包み。
今日は私の誕生日でもなければなんでもない。
笑顔を浮かべる佐助にもう一度なんだそれはと言えば佐助は嬉しそうに笑う。
「同棲して一周年記念日」
「…は?」
「かすがにはいつもお世話になってるからさ、俺様からのほんの感謝の気持ち」
「なッ…!」
じわじわと顔が熱くなるのを感じながら、受け取ってよと差し出される包みを手にした。
意外に軽いそれと佐助の顔を見比べる。一体どういう風の吹き回しだ。
「ホラホラ、開けて開けて!」
「わかっている!だが、私は、何の準備も――「いーからいーから!俺様が勝手にやったことなんだから」
「…礼を言う前に一つだけ言っておくが」
「何」
「同棲ではないからな!」
目を真ん丸くしてからはいはいと苦笑する男を尻目に、包みを開けた。
リボンを引くだけで、簡単に開くようになった構造は包みを破らなくてすむ。
白い包みの中から現れたのは、白い布だった。
「ぬの…?」
「広げて広げて!」
促されるままにそれを広げると、白いフリフリがついた可愛らしいエプロン。
「これは…」
「そー。かすがいつも洗い物するとき服がびしょびしょになるって喚いてたろ?うちにはエプロンなんかないし、だからさ」
「…わざわざ買ってきたのか?」
「んー、まぁね」
「悪いな…」
「だからいーっての。早速着てみなよホラ」
佐助は恥ずかしそうに頭をかくと早く早くと繋げる。
「ああ」
ドキドキしながら新しいエプロンに袖を通すと、サイズがぴったりだった。
思えばエプロンをしたのなんて高校生以来か。
似合っているかは別として、着心地も悪くは無い。
しかし普通のエプロンよりは少し丈が短い気がした。
「これなんか少し短くないか?」
「ん?」
普通膝くらいまでなきゃ意味がないんじゃないのか?と尋ねれば
佐助は目を丸くする。
「これでは丈が短すぎるだろう?」
「ああ、そういうこと?」
納得した様子で、いーの、いーのと微笑むと、だってそれ裸エプロン用だもんと続ける。
「…………」
「なんだって?」
やっとのことでそういうと、佐助は笑顔のまま答える。
「裸エプロン」
「は、はだか…?」
「風呂から上がってからでいいからさぁ、そっちもやってみ「誰がやるか!!」
少しでも感動してしまった私が情けない。
大丈夫何もしないってと苦笑する男を睨みつけると、自分と佐助の間に空中で横切るように線をひぱった。
「何してんの?」
「こっから入ってくるんじゃない」

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