エンドレスリピート

携帯を手にしたまま、すでに一時間弱。
液晶左下の送信ボタンが押せなくて、我ながら失笑する。 さっきから大した文章量でもないのに、何度も何度もメールの文面を読み直しては修正し、上書きで保存する。
夕飯前の丁度良い時間を狙って送ろうと計画していたのに、気がつけば既に彼女の夕飯タイムはとっくに終了している時間だった。 イヤホンからは自分で選んだ応援ソングが、延々とリピートして流れ、高ぶった感情とどこか冷静な感情の間で揺れる。

たった5文字。
それだけ送れば白黒とけりがつくのに。
未だに携帯を持つ指は言う事を聞いてくれず、真っ暗になった液晶をただただ見つめていた。
「!」
突如として携帯が生き物のように震えだし、思わず取り落とした。
間の悪さに苦笑しながらやれやれと携帯を拾い上げ、通話のボタンを押す。
「もしもし?」
いつもの彼女の声が耳元で甘ったるく響いた。
「もしもし?今メール送ろうとしてたよ」
「あぁ、何か用だったっか?」
「いや、別に用はないんだけどね」
「…用もないのにメールを送るな
「…良いじゃん、別に」
「………」
会話が途切れて、一瞬の沈黙がわだかまりを生む。 気を取り直すように溜息を吐いて“そっちこそ何か用?”と短く尋ねた。
「いや…。特に用はない」
「用もないのに電話してこないでよ」
苦笑しながらそういえば、彼女も受話器の向こう側でかすかに笑う。
メールで言えなかったこと、今言ってしまおうか―――。 そんな思いが脳裏をよぎった。
「あのさ、かすが、」
「ん?」
「かすが、俺、さ」
「…なんだ」
「俺――――」
カタカタと手が震えるのは受話器越しに伝わるだろうか。
そんな心配をよそに彼女は“なんだ早くしろ”とまくし立てる。
「…な」
「な?」
「何食ったらそんな乳でかくなんの?」
「………」
またもや重い沈黙が横たわった。
「… 言いたいことはそれだけか」
「え、…うん」
そういい終えぬうちに突然。 ブツリと回線が容赦なく切れ、冷たく無機質な音が繰り返し鳴る。
(あーあ。またやっちゃった)
それはそれは深く溜息をついて、今度こそさっきのお詫びとともに彼女にメールを出そうと決意した。
(はじめに戻る)

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