調子に乗るな

「いたたたたっ…!」
親指で首筋のツボを押せば、動物のようにジタバタと身体を動かす。
よほど痛いのか、さっきからかすがは痛いを連発した。
仕方なくそこから指を離すと、かすがは溜め息のように息を吐いて、首筋を押さえる。
首を左右に傾ければ、骨の軋む鈍い音がした。
「首が太くなるよ」
「うるさい、私の勝手だ」
からかうように言えば案の定しかめっ面が返って来る。
上杉社長さんに嫌われちゃうかもよ、と仄めかしてみれば、かすがは慌ててじゃあやめるだなんて言い出した。
…可愛いんだけど可愛くない。
さっきより強めに――今度は両手の親指で――ツボを押す。
かすがは呻くように声を上げて、力んだ。
「優しくやれっ…!」
「はいはい」
そのまま首筋から肩に向かって指を這わせて筋肉をほぐすように優しく揉みしだいてゆく。
かなり凝っているのか指先から肩が張っているのがよくわかった。
今まで散々痛いだの強すぎるだの唸っていたかすがが急に静かになったので、なんとなく不安になって気持ちいい?と尋ねてみた。
かすがは小さくああと答えるとお前、なかなかうまいなと短くつなげた。
「へへー、さすが俺様!」
「確かにこの腕はサラリーマンにしておくのはもったいないな」
「またまたーおだてたって何もでないよ」
「そんなものはハナから期待してなどいない」
「全くー素直じゃないんだから…」
かすがの肩に顎を乗せると、優しく囁いた。
「俺様、あっちのマッサージも自信あるよ」
「………」
あっちのマッサージの意味を考えているのかかすがは黙っていた。
そしてやっと意味に気づいたのか狼狽えて頬を染める。
「ちょ、調子に乗るな!」
あんまり耳元で叫ばれたもんだから、しばらく難聴になった。

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