チームプレイ

雑魚兵が刀を振り回しながら、次から次へと斬り掛かる。
先程まで、見事にそれを返り討ちにして歓声すら上がっていたのに、今のかすがは動きが鈍い。
まるで何かをかばっているような『違和感』。

俺様は場外で苛々と体を揺すりながらかすがを見つめていた。
最後の敵兵が地面に突っ伏して、審判の甲高い声が辺りに響き渡る。
「勝負ありッ!」
倒れた兵士がすぐさま担架で運ばれて行くのを横目で見つめ、かすがは小さく溜め息をつくと、おぼつかない足取りで場外へ歩み出る。そして無造作に置かれた石の長椅子に腰掛けると俺様の視線に気づいて、気まずそうに目を反らした。
「かすが」
案の定俺様が声をかけて来ると思ったのか、かすがはめんどくさそうにこちらに顔を向ける。
「なんで俺様に変わらないわけ?」
かすがの座っている長椅子まで詰め寄って、そう言った。今のところ試合は連勝だが、戦っているのはかすが一人だ。折角のチーム戦なのにかすがは俺様に頼ろうともしない。
「あんな雑魚兵 私で十分だ。お前の出番などない」
「そーお?苦戦してたくせに」
「く、苦戦などしていない」
「じゃあその手はなに?」
乱暴にかすがの手首を掴み、こちらへ引き寄せる。よほど痛いのだろう、かすがは顔を歪ませた。見れば左手首に赤黒いアザが出来ている。
「無意識にかばいながら戦ってたよね、後半からはそれで動きが鈍った」
「……………」
肯定ととっていいのか、かすがは黙って俯いた。俺様は子供に言い聞かせるようにかすがの腕を掴んだまま左右に振る。
「ねー、どうして無理すんの」
「…無理なんかしていない」
「俺様とかすがはチームでしょ?」
「…不本意だがな」
「俺様はさ、かすがと一緒なら優勝する自信、あるよ?」
真面目な顔でそう言って、かすがの手のひらをしっかりと握った。
かすがはしばらく俯いたままだったけどやがてフン、と鼻を鳴らすと当たり前だ、私がいるんだからなって顔をあげた。
「そーそー。それでこそ俺様のかすが」
「お前のものになった気はさらさらない」
「さーて、俺たちのチームプレイを見せつけてやりますか」
力強くそういってかすがに目配せをする。かすがは思い出したように声を荒げた。
「佐助!」
「はいはい?」
「さっさと手を離せ」
かすがはそう言ってすぐさま俺様の手を振り払うと、怒ったようにそっぽを向いてしまう。可哀想な俺様は手持ち無沙汰な手のひらに目を落として嘆くように呟いた。
「あーあ、折角自然に握ったのに…」
「さっさと場内に上がれ!」
吐き捨てるようにそう言うと、そのまま観客席のほうへ歩いていってしまう。
「えっ、おい!かすがったら!次の試合どーすんの!」
「…次の試合はお前に任せる」
ぶっきらぼうにそう言って、振り向きもしない。でも耳だけが仄かに赤く染まっているのに気がついて、口端が自然に緩んだ。

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