募金

「募金お願いしまーす!」
佐助の買い物に付き合された帰り道。
駅前で横一列に並んだ少年たちが、一生懸命に叫んでいた。

募金だって!と面白そうに目を輝かせる男をよそに私は内心焦っていた。
正直、こういうのは苦手だ。
何が苦手って、募金を募る子供たちの視線。
あんなに懸命に叫んでいるところへ行ってお金を入れるのも恥ずかしいし、なにより入れた後に大声でありがとうございます、と言われるのもつらかった。
(かといって通り過ぎるのも気が引けるが)

一人で悶々と考えている間に、さっきまで左隣にいたはずの男はこつ然と姿を消していた。
どこへ行ったと辺りを見回せば、奴は臆する事なく少年たちの目の前に立っている。
そして何くわぬ顔で募金をして“ありがとうございます”の声を背景にフラリと戻ってきた。
「へへー、俺様良い事しちゃった」
佐助は腹立たしいぐらい清清しい顔で笑うと、募金のお礼にもらったという赤い羽を見せた。
(く…、なんて奴だ!一人だけでさっさと行くなんて…!)
まだ誰かと一緒に行くなら恥ずかしさも薄れるというのに、これであそこにますます行きづらくなるじゃないか…!

そんな私の心境もつゆ知らず佐助は少年たちを眺め、大変だねぇなどと呟いていた。
少年たちは口々に募金お願いしますと街行く人々に呼びかける。
このご時世、なかなか募金してもらえないのだろう。
どの人も見ないふりをして彼らの横を通り過ぎてゆく。
ああ、一体私はどうしたら良いのだ…!
もちろん募金した方が良いに決まっている、がしかし。しかしだ。
この男の前で、わざわざ顔をひきつらせてまでお金を入れるのが果たしてあの子たちのためか?
そもそも佐助が募金したのだから私はする必要はないのでは…?

考えている間にも佐助はわあわあと何かを喋っていたがそんなものはちっとも頭に入って来なかった。
ふと声がやんで、そちらのほうを見れば募金少年の一人と目が合った。
し、しまった―――!
「募金お願いしまーす!」
少年は真っすぐに私を捉えると、無垢な瞳で語りかけてくる。
「ああああ、ああっ…!」
私は泣きそうになるのを懸命にこらえ、その場を足早に立ち去った。
「ちょ、どこいくのー!」
後ろから佐助の声が追って来たがそれどころではなかった。











※後日 
かすがは償いにコンビニの募金箱に500円を投入するのだった。
(すまなかった、少年)

Since 20080422 koibiyori