雨の日
雨の日は嫌いだ。
心の中でぼそりと呟いて、空を仰ぎ見た。
薄暗い空からは飽きもせずにざあざあと雨粒が降って来て、地面を濡らしていく。
大分前からこの光景を眺めているが、ちっともやむ気配はなかった。
玄関前で途方に暮れながら、他の生徒が堂々と傘を広げる様を横目で見送った。
どうやら敗因は朝のニュースを見なかったことらしい。
午後の降水確率80%の高確率に傘を持って行かない馬鹿は私くらいのものだろう。
よくよく考えれば、朝から寝坊するなど今日は散々だった。
小さく溜め息をついて、今一度期待を込めて頭上に目をやった。
「かーすが」
雨音に混じって、後ろから声をかけられる。
首だけ後ろに回し見ればオレンジ色の頭の男がにこにことこちらを見ていた。
「何の用だ」
「何の用って、これから帰るとこ。かすがこそこんな所で何してんのさ」
まさか傘を忘れた等とみっともなくて言えるはずもない。
言葉に困って一人もじもじとしていると、佐助は頭をひねって、あ!と嬉しそうに言う。
「もしかして俺様のことを待ってて――「断じて違う!」
「冷たいねぇ、折角だから一緒に帰ろうよ」
「…お前の場合、是非に関わらずついて来るつもりだろ」
佐助は苦笑するとご名答と指を打ち鳴らす。
そして手にしていた傘を颯爽と広げると、早く帰んないと今日は大雨になるよと続けた。
「お、大雨だと!?」
うっかり言葉にしてしまい、慌てて取り繕うが 佐助は察したらしい。
途端にニヤニヤ笑みを浮かべ、私の傍へすり寄って来る。
「ははん?かすがったら、傘忘れたでしょ」
「う、うるさい!お前には関係ない!」
佐助はやれやれと肩を竦めると、狭いけど入る?だなんて傘をこちらへ突き出した。
「フン、お前と相合い傘をして帰るくらいなら、ズブ濡れで帰った方がましだ」
「あら、そ?まぁ俺様は構わないけどね」
不適な笑みを浮かべたまま、佐助は空を仰ぎ見る。
雨脚はさっきよりやや強くなった気がする。
「この雨じゃ、外に出た途端びしょ濡れでYシャツとか透けちゃうんだろーねぇ」
「下手するとスカートも透けちゃうかもしんないし」
「髪も服も全部体に貼り付いて、シャワー上がりみたいになっちゃたりして」
「雨も滴る良い女をまじかで見られるなんて俺様超ラッキー」
誰に言うとでもなく呟いて、視線を私に戻す。
「俺様にズブ濡れの体堪能させてくれんのと一緒に傘に入って帰るの、どっちが良い?」
満面の笑みでそう問われて、私は渋々佐助の傘の中へ入った。
Since 20080422 koibiyori