悪夢
青と赤がまるで火花のように網膜に残像を残す。
近づいては離れ、離れては近づく。
二人の影を目で追うのが精一杯だというのに二人とも笑っているのを肌で感じるのだから気味が悪い。
正直、これ以上見ていたくなかった。
そのうちどちらかが紅に染まって屍に変わる。
手のひらでそれを隠そうとしても、目を閉じても、眼前に広がる情景は鮮明に映し出されるのだった。
もうやめてくれ、もうたくさんだ
意思とは無関係に映像は止ることはない。
喉から「ひゅうひゅう」と声が漏れ、肉声に変わる前に風に消えた。
俺様の喉はどうしちゃったんだ、とにかくひどい汗だ。
俺様はこの先を知っている。
これ以上見ていてはだめだ、とりかえしのつかないことになる。
この先は、このあとは…
何かを懸命に思い出そうとするが、白いもやがかかってしまい視界を遮る。
状況を整理しようとすれば、後ろから声がした。
「お前は後悔しているのか」
金色の髪の女が冷めた目でこちらを見ている。
後悔?なぜ?俺様は何を後悔しているんだ?
わからないんだ、これがなんなのかも、
お前はだれだっけ。思い出せない、俺はだれだっけ、
なんだっけ、いまなにをかんがえていたんだ…?
「うわぁあああああああ!」
絶叫とともに青い色は紅に染まった。
赤はその場に崩れ落ちると動きを止めた。
紅の液体が地面に広がっていく。
青は赤を一瞥し、俺様に近づくとざんねんだったな、と声をかけた。
*
「佐助っ!」
突然名を呼ばれて現実の世界へ引き戻された。
どうやら寝ていたらしい。
最悪の夢。
肩で息をして、汗をぬぐう。
全身がぐっしょりと濡れている。
「佐助」
名を呼ばれた方に顔を向ければ、かすがが心配そうにこちら見ていた。
「大丈夫か?」
「あぁ ちょっと悪夢を、ね」
「笑っちゃうよね、なんか戦国時代の夢でさ、真田の旦那と竜の旦那がさ」
「通夜は明日だ」
息が止まりそうになって、(たぶんとまったのかも)
俺様はやっとかすがが黒い服を着ていることに気がついた。
Since 20080422 koibiyori