憧れる

里でそいつの名前を知らないやつはいなかった。
『猿飛佐助』
優秀な忍びで、幼少の頃からその体術や忍術は他の子供より秀でていて
風魔小太郎に次ぐ伝説になるだろうと噂されていた。

私が里に引き取られた時、そいつはすでにその優秀さをかわれて奉公に出ていた。
感情を持たない、冷酷な忍。

どんな手を使っても狙った獲物は確実に仕留める。
そいつに命を狙われた者は必ず死ぬと言われていた。
私の中の猿飛佐助はそういう人間だった。
少なくとも川中島の戦いでお前と会うまでは。

初めて会ったあの戦いで、お前が名を名乗った時はひどく動揺したものだ。
まさかお前があの猿飛佐助とはな。
お前は聞いていた噂とは随分違った。
確かにどんな手を使っても仕事は成功させるし、腕も確かだった。
でもお前は、私を助けた。
自分の命を顧みず。

お前は、口が軽くて、いつもヘラヘラしていて、おせっかいで、忍びの癖に目立ち過ぎで、伝説の忍びの次くらいに有名だけど。

お前に憧れない忍びなんていないんだ。
佐助。

私もその1人だ。

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